泰輔の下した決断

仕事が終わり家に帰ると、コーヒーの香りが漂ってきた。リビングでは泰輔がコーヒーを飲んでいた。成海は水を飲もうと台所へ向かった。

「あれ? 焙煎機は……?」

思わず声が出た。するとコーヒーを飲み干した泰輔がカップを持って流し台にやってくる。

「処分したよ。業者にお願いして買い取ってもらったんだ。半値以下だったけどまあ仕方ないよ」

「……は? なんで?」

「……そもそも俺が勝手に買ったのが間違いだったから。なかなか業者が来てくれなくて時間が掛かっちゃったけど……」

泰輔が知らないうちに動いていたことに、成海は素直に驚いた。しかし成海の驚きはそれだけではなかった。

「ごめん。勝手なことして」

泰輔は成海に向かって、深く頭を下げていた。

「俺はそもそもコーヒーを2人で飲んでるあの時間が好きだったんだよな。成海が美味しそうに飲んでくれるだけで嬉しかったはずなのに、何か変な方向に暴走しちゃってさ……」

申し訳なさそうに声を震わせる泰輔に、成海は小さく安堵の息を吐く。本当は同じ気持ちでいたことが、なんだか無性に嬉しかった。

「私もあなたに言い過ぎちゃったわ。それは本当にごめんね」

「いや成海は何も悪くないよ」

「コーヒー、私もいい?」

成海がそう言うと、顔をあげた泰輔は安堵したような笑みを浮かべた。

「すぐに作るよ。美味しそうな豆を手に入れたから味見してほしい」

「うん、ありがとう」

そう言って泰輔はコーヒーを淹れだした。

成海からの誕生日プレゼント

仲直りをしてから3日後、成海は家で仕事をしていた。

するとチャイムが鳴り、ドアを開けると以前と同じ配達員が立っていた。手には段ボールを持っている。けれどそれは片腕で抱えられるほどの、小さい段ボールだ。

成海はそれを笑顔で受け取り、段ボールを開ける。中には小型のホームロースターが入っていた。少し遅くなったが泰輔の誕生日プレゼントのために注文をしておいたのだ。

泰輔がどんな反応をするか想像をして、成海は思わず笑みをこぼした。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。