近年、各所で「退職代行」が話題になっている。直接会社と面談せずとも、電話1本で退職できるこのサービスは、退職時のストレスを大きく軽減したことで多くの労働者の支持を受けた。

しかし、一度その便利さを味わったがゆえに「辞め癖」がついてしまう人もいるという。その結果、自分勝手な退職を繰り返すようになり、損害賠償を請求されてしまうような事態も実際に起きているのだ。

今回は、まさにその典型例ともいえる田原氏(仮名・20代男性)の事例をお伝えしながら、退職代行の限界について解説しよう。

退職代行での成功体験が“転落人生”の始まりに

「直接顔を合わせて退職を言うなんて、怖くてできませんでした」

田原氏は当時を振り返るにあたって声を震わせながらそう語る。

彼は当時、中古自動車販売業に勤務していた。だが、中古自動車販売業界は非常に過酷な会社も珍しくはない。上司からの日々命じられる厳しいノルマに加えて顧客からの無茶な要求も重なり、彼は日を追うごとに心身ともに摩耗し続けていた。

そんなある日、「田原、この案件お前に任せる」と会社の上司からある顧客との商談を進めるよう指示される。嫌な予感がしたが彼は「わかりました」と返事をし、引き継ぎを受ける。

だが、その案件はどう考えても不可能な納期での案件だった。海外からの部品の取り寄せが前提となっており、今から手配をしても間違いなく納期には間に合わない。本来であれば、この時点で顧客へ申し出て断るべき内容だった。

その点を上司に指摘するも、上司からは「顧客は5日後の引き渡しを絶対としている。やれるだけやれ」と告げられる。その時の感情について彼は「終わったと思いましたよ。俺は上司のスケープゴート扱いなのだと絶望しました」と語っている。

そんな絶望の中、彼はSNSにてある退職代行の広告を目にしたという。

その広告には「安全に辞められる」「すべて弊社にお任せください」という言葉が謳われていた。実際にリンクから飛びサイトを見てみると、「即時に会社や上司へ連絡することなく円滑に辞められる」という謳い文句があった。

追い詰められた彼にとってこれは救いの糸に見えたのだろう。すぐにその退職代行業者へ連絡。その場で依頼をし、彼は翌日から出社することなく退職したという。

しかし、これが田原氏の転落人生の始まりだったと私は睨んでいる。