「嫁=自分の老後をみてくれる人」
中国地方在住の片岡智子さん(仮名・60代)は、大学2年の時に部活動で知り合った男性と交際をスタート。大学卒業後はそれぞれ教育系の仕事に就き、25歳の時に結婚した。
「夫は結納を済ませた後、結婚式までの間に上司と喧嘩したらしく、街まで特急で3時間ほどかかる田舎の部署へ飛ばされ、そこで新婚生活をスタートしました」
田舎暮らしとなって1番の問題は、夫の母親、義母だった。
「本当なら長男なんやから同居するところやけど、遠いから別々に住んでいるだけ。だから連休はこっちに帰ってきなさい」など、自分の“理想の嫁像”を押し付ける人だったのだ。
「連休前に私の実家の近くに夫が出張することになり、ついでだからと2人で私の実家に泊っていたら、『連休は必ずこっちに泊らなあかん!』と言って電話してくるんです。『元気か?』なんて言いながら、連休中は特に、私たちが私の実家へ帰っていないか必ずチェックしてくるので、げっそりしました」
中でも呪文のように言われたのは、「私が一人になったら、頼むな」という言葉。結婚してすぐから、義実家へ帰る度に言われていた。
「老後、一人で暮らすことへの恐怖でしょうか? 義母は、嫁=自分の老後をみてくれる人、みたいな感覚でいつも私を見ていたように思います」
この老後への異常なほどの恐怖感が、後に自分の家を失う一因になるとは、まだこの頃は知る由もなかった。
義弟の結婚
長男である夫には、3歳下に弟が1人おり、遅れること8年後、義母が勧めるお見合いで結婚した。
義弟との結婚前、義妹は義母に言った。「私、小さい頃お祖母ちゃんと一緒に住んでました。だからお義母さん、一緒に住みましょう!」
この一言が、義母の運命を変えた。
「よし! では一緒に暮らせるように、この家を建て変えよか。あんたらの好きなように設計したらいいわ。お金は私が出したる!」
この日から義母は、「うちは長男ではなく、次男が跡継ぎです!」と親戚中に言って回るように。
「おかげで長男の嫁である私の上にのしかかっていた重圧がなくなり、『私が一人になったら、頼むな』という呪縛からも解放されました。私は家をもらうより、断然自由の方がいいと思っていました」
義父は家の建て替えが始まるとき、 義妹に言った。
「では、私にもしものことがあったら、ばあさん(義母)のことを最後までよろしくお願いしますよ」
義妹は優しくうなずいた。