家族円満な南田家
中部地方在住の南田美玖子さん(仮名・50代)の父親は、上場企業の会社員だった。1歳下の母親は、結婚前は教育係企業で働いていた。2人は父親の姉、母親の兄の結婚を機に出会い、父親の一目惚れで交際を開始し、父親23歳、母親22歳で結婚した。
専業主婦になった母親が25歳の時に兄が、5年後に南田さんが生まれ、両親の夫婦仲も南田さんと兄のきょうだい仲も良く、家庭円満だった。
やがて兄が大学入学を機に家を出たが、南田さんは実家から大学に通い、卒業後は上場企業の研究所に就職。25歳の時に大学時代の友人と結婚し、南田さんは寿退社する。実家から車で20分くらいのところで暮らし始めると、27歳で長女を、2歳違いで次女、三女を出産。両親や義両親との関係は良好で、娘たちの七五三や幼稚園・学校などの行事がある度に会っていた。
2004年、取締役まで務めた父親は、70歳で完全に定年退職を迎えると、趣味の鉄道模型作りに没頭。母親は時々それに付き合ったり、旅行へ行ったり、お茶や染め物、アートフラワーなど、お稽古ごとに勤しんでいた。
母親の異変
ところが2015年。南田さんは、78歳の母親が何度も同じ話を繰り返すようになってきたことに気づく。その上、待ち合わせの時間に遅れてきたり、歯医者の予約時間に間に合わなかったりするほか、常にイライラし、南田さんに逆ギレすることが増えていく。
「当時は認知症に怒りっぽくなるという症状があることを知らなかったので、気づくのが遅れました。気づいた時にはすでに母は1人で病院に行き、認知症の貼り薬をもらっていて、どこの何という病院に行っているのか聞きましたが、教えてくれませんでした。しっかり者の母は、プライドもあったのかと思います」
そして2018年。夫や娘たちに相談し、全員が「おそらく認知症だろう」と見解が一致したため、南田さんは近所の精神科を予約し、母親に「行ってみようよ」と声をかけた。すると母親は、「何言ってるの!行かないわよ!」と激怒し、口をきかなくなってしまう。
同じ頃、南田さん夫婦と1番目の娘・両親の5人で5日間の海外旅行へ行った。その時、南田さんや娘は機内持ち込み可能なサイズだったが、母親のトランクは「何日滞在するんだろう?」という大きさ。おまけに母親は、80センチほどもある巨大なウサギのぬいぐるみを抱いていた。父親は「口出しすると怒り出すから」と、好きなようにさせておいたようだ。
「孫ちゃんがウサギ好きだから喜ぶと思って」
旅先の宿に着くと、母親はトランクを開けた。すると中にもウサギのぬいぐるみが複数入っていた。これら全てを孫にあげると言う。
「旅行に同行したとき、1番目の娘はまもなく30歳。ウサギのぬいぐるみで喜ぶ歳はとっくに過ぎていましたし、旅先で渡されても困ります。とはいえ本人は孫を喜ばせたくてした行動。ちゃんと理由はあるのですが異常だと思いました」