桜まつりで大盛況となる夫の料理
天色に晴れ渡る空に向かい、たわわに花をつけた並木の桜が競うように枝を伸ばしている。毎年この季節にマンションの自治会が開催している桜まつりは、好天に恵まれ、例年以上に人出が多い。
イタリアンバルを経営する夫と桜まつりに出店するようになって5年。ナポリタンやホットドッグ、パニーニサンド、ミネストローネスープなど肩の凝らないメニューばかりだが、昼どきが近づくと客が途絶えず、店先はてんやわんやになった。
夫が開いているサッカー教室の児童が3人、袋詰めやレジの手伝いをしてくれている。中でも15階の合田さんの下の息子さんはまだ5年生のはずだが、仕事が早くて機転がきくので助かる。後でお母さんにお礼を言わなければ。
行列が一段落したタイミングで、夫が特製の目玉焼き入りナポリタンとスープ、サラダを3人分用意してくれた。
「1時間くらいは大丈夫だから、一緒に食べてきなよ」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なく」
「行ってらっしゃい!」子供たちに見送られてマンションに向かう。
自宅のある中層階でなく、高層階専用のエレベーターに乗り込む。50階で降り、5010号室のインターフォンを押した。
「はぁい」
ドアが開いて高梨さんが顔をのぞかせる。60歳を少し超えた高梨さんはちゃきちゃきの江戸っ子でいかにもきっぷがいい。一緒にいるといつの間にかこちらまで元気になってしまうから不思議だ。
高梨さんに案内されたリビングには義父、否、正確に言うと元義父が座っていた。