「こんなの不公平だ……やり直そう」
利弥(43歳・男性)が、悔しさを隠しきれない声で妹へ語り掛ける。
正直なところ彼の気持ちも分からなくはない。数年前に亡くなった父の相続で遺産は分けたはずだが、その後遺産の価値が変動してしまい兄妹間で倍以上の差がついてしまったからだ。
妹・美矢(40歳・女性)の返事は「だから兄さん、それはできないよ……」と、利弥が望んだセリフではなかった。
さて、この兄妹はどう話し合いの決着をつけるのだろうか……。今回は、金融商品の値動きが相続後の兄妹関係を揺るがしたケースについて語ろう。
「金額が少なくてもいいから、株を全部ちょうだい」
彼らの父、和利さんが亡くなったのは数年前、今に至る金融バブルの兆しが見えはじめた頃だった。和利さんは私の地元では勤勉で有名な人物だった。長年ボランティア活動を続けながら地元では有数の企業に新卒から定年まで勤め、一定の財産を築いていた。
財産の具体的な内訳は以下の通りだ。
・現金:約3000万円
・金融商品(株式・金が中心):評価額約2000万円
当時の価格で約5000万円は、会社員が残した遺産としてはなかなかの金額だ。
私はこの時、地元の友人の紹介で、遺産分割への立ち合いと遺産分割協議書の作成を任されていた。
額が額だけに遺産分割協議は難航するかと思いきや、意外にもすんなり終わった。投資に熱を入れていた美矢が、利弥に対して「いまの時点での金額は少なくてもいいから、株を全部私にちょうだい」と言ったからだ。
