<前編のあらすじ>

父・達也さんには賢治さんと洋子さんの2人の子供がいた。

達也さんは相続を考え、遺言書を作成することにしたが、もともと優柔不断な性格だったせいか、肝心の相続分について自分では決められなかった。その結果、行政書士の反対を押し切り、「兄に判断を委ねる」という遺言書を作成してしまう。

やがて達也さんが亡くなると、遺言書にあった通り、達也さんの兄の学さんが相続分を決めることに。

その結果、相続分をめぐって、親族の間に壮絶なバトルが繰り広げられる……。

●前編:【だから「後で必ずトラブルになります」と言ったのに…優柔不断な父が作成した「トンデモ遺言書」が招いたバトル】

「女の子なんだから、これで十分だろう」

達也さんの死後、遺言書の通りに伯父の学さんが相続割合を決めることになったが、案の定、これが荒れに荒れた。

学さんの決めた相続割合が、賢治さんの相続分が6割、洋子さんの相続分が4割となったからだ。

洋子さんからは「どういうつもりでこんな内容にしたんですか?」と、私あてに怒りの電話が飛んできた。事情を説明するために急ぎ洋子さんのお宅へ伺う。

すると学さんもちょうどそこにいた。

一通り挨拶を済ませ本題に入り、相続分を決定した理由を聞くと、学さんが平然と答える。

「長男が家を継ぐものと昔から決まっているからな」

驚く私のことは気にせず、学さんはさらに続ける。

「洋子は女の子なんだから、これで十分だろう」

この言葉を傍で聞いていた洋子さんは激怒した。

「私が女だから? そんな理由で!?」

彼女の気持ちは痛いほどわかる。学さんの決め方はあまりにも前時代過ぎる。現代の価値観で考えれば誰の目から見ても不公平だ。

「不公平じゃないですか!」

そして洋子さんの怒りの矛先はついに私にも向かってくるのだった。

「もとはといえばあなたのせいですよ! あなたがこんなものを作ったせいで……」

こうなることはうすうす分かっていたので心が痛い。だが、私はあくまでクライアントの意向に従わなければならない。

もちろん、お断りしなければならないこともあるが、リスクを説明した上で、顧客がリスクを承知で実現したいと思うなら、その実現のために全力を尽くすのが私の仕事だ。

とはいえ、私に全く責任がないかと言えば、そう言いきれない部分も残る。

何も言えず黙る私に対し、彼女は「法的根拠があるから作っているんですよね?」と問い質す。

私は重い口を開き答える。

「遺言書では具体的な相続分の指定はもちろん、誰かに相続分の指定権を委ねることもできるんです」

「でも、不公平じゃないですか!」

洋子さんが再び感情論を持ち出した。

内心悪いと思ってはいたが、私は心を鬼にして法律論を繰り返す。

「遺言書作成当時、私も反対しました。こういった不公平が起きると思ったからです。しかし、最も重要なのは、達也さんの意思です。達也さんが兄の学さんに委ねると決めた以上、その意思は尊重されなければなりません」

そして「感情的に納得がいかないことは理解できます。しかし、法の規定はどうにもならないんです」と諭した。

少しの沈黙の後、洋子さんは「もういいです、本日はお引き取りください」とだけ返事をした。もう少し彼女と話すべきか悩んだが、おそらく何もできないと諦めて、素直にその日は帰宅したのだった。