<前編のあらすじ>

坂上佳子(49歳)は、航空会社のCAとして勤務したあと、マナー講師として独立。個人事業主として企業の研修などを請負っている。

夫の坂上慎一郎は大手流通チェーンの社員だったが、実績が認められて部長に昇進。思い切って東京下町のタワーマンションを購入したばかりだった。

念願のタワーマンション生活で、浮かれていた佳子は、上層階のジムにも足繫く通って、タワマン生活を満喫していた。

ただ、そのジムで、村西佳世子と名乗る「高層階に住む58歳の美魔女」から急に罵倒されるという事件が発生。しかもその後も「美魔女」の嫌がらせは段々エスカレートしていく……。

●前編:【「たかが5階のくせに、偉そうね。私は36階よ?」タワマン高層階に住む「58歳美魔女」が低層階女性住人に浴びせた「罵声」の意味】

「アニメの魔女みたいな髪型のおばちゃん」

坂上佳子と坂上慎一郎の子ども、坂上茉奈はまだ小学校6年生だった。

ただ、将来の自立を考え、できるだけ自分でやらせるのが夫婦の教育方針だったので、坂上茉奈はずいぶん前から、積極的に家事の手伝いをしたり、犬の散歩に行ったりしてくれていた。

佳子が美魔女から侮辱された日の翌朝6時半に、坂上茉奈はいつものようにペットの柴犬「ペロ」を小脇に抱きかかえ、散歩に出かけた。

と、ものの5分もしないうちに、茉奈が小脇に柴犬を抱えたまま戻ってきた。

「どうしたの?」

そう聞いた佳子に、茉奈は泣きはらした目で訴えたのだった。

「あのね、エレベーターで下にペロを連れて降りたんだ。そしたら、アニメの魔女みたいな髪型のおばちゃんがいて、ペロを叩いたんだよ」

「え?」

佳子は思わずぎょっとした。ペロを見ると、やはり何かあったらしく、尻尾を丸めてしょげかえっている。

まだくわしい話はわからないが、魔女みたいな髪型のおばちゃんと言うと、昨日の美魔女のことが思い出された。何かで逆恨みされているのかと思い、佳子の背筋に冷たいものが走る。

「低層階の人間は、汚い犬を飼ってるのねえ」

「それから、いくつかひどいことを言われて……」

「ど、どんなことを言われたの?」

「低層階の人間は、汚い犬を飼ってるのねえ、って。あと、犬を見ればその住人が何階か大体分かるわねえ、とか……」

「はあ?」

坂上佳子は耳を疑った。犬までだしにして馬鹿にするのはあまりにもひどいと思った。そもそも人の子どもに向かって言っていいセリフではない。

「とんでもないおばちゃんだね。ほかにひどいことされなかった? ぶたれたりとかは?」

心配になって佳子が聞くと、茉奈はぶんぶんと首を振った。

「そういうのはなかった。ペロをバカにされただけ」

佳子はため息をついた。ほっとしたのが半分、美魔女への苛立ちが半分といったところだった。

子どもに被害が及ばなくて良かったものの、美魔女の行動の意味がまったく理解できず不気味だった。

――わたしとトラブルになったから、子どもにまで嫌がらせしているのだろうか?

ただ、昨日はじめて会った美魔女が、娘の茉奈のことまで知っているはずがないと思った。

しかし、佳子の名前と階数はバレている。だから、エレベーターとか、部屋の前をこっそり見張っていれば、茉奈が佳子の娘ということは分かったかもしれない。

そこまで考えると、坂上佳子は思わずぞっとしたのだった。

――警察に相談しようかな……。

佳子はそう考えたが、今のところ悪口を言われただけではあるので、騒いだところで警察が動いてくれる可能性は低そうだった。

「いい? その変な髪型のおばちゃんを見かけたら、絶対近づかないように」

そう言い含めると、茉奈は少し不満げではあったが、佳子の真剣さを察したのか、こくんとうなずいた。