マンション管理人が目にした「ゴミ捨て場」

66歳になる有村秀和は東京都板橋区に暮らしている。

大学を卒業後、約40年にわたり、都内の部品メーカーの営業担当として働いてきた。その実績が認められ、最後の3年間は営業担当の役員を務めていたが、会社の規定で60歳で定年退職することになった。

退職再雇用制度があったので、65歳までは同じ会社で勤務し、後輩の営業担当者を指導していたが、65歳になり再雇用制度の限界に達したため、退職することになった。

働くほうが健康にいいし、収入面でも助かると、秀和は65歳以降も仕事を続けるつもりだった。いろいろ仕事を探した末に見つけたのが、マンション管理人の仕事だった。

マンション共有部の掃除など軽作業が中心で、負担も軽いため、秀和は自分にもできそうだと思った。マンション住人と接する機会もあるというが、そこは長い間営業を担当してきた秀和の得意分野だった。

マンションの管理会社からも、秀和の経験や能力、やる気が高く評価された。そのためこの4月から秀和はマンション管理人として働きはじめていた……。

 

「なんだこりゃ……」

その光景を目にした途端、有村秀和は思わず顔をしかめた。

そこはマンションのゴミ捨て場だった。コンクリートが張られた三畳ほどのスペースに、ゴミ袋や段ボール箱がうず高く積み上げられ雑然としている。袋がしっかり閉じられていないせいか、床には生ゴミから染み出る汚水が溜まっており、立ち上った悪臭がムッと鼻をついた。

――臭え……。

秀和は思わずそうボヤいた。

――しかも、全然分別されていないが……。

ゴミは入居者が「不燃」「可燃」「ペットボトルなど」に分別して捨てるのが、マンションのルールだった。

壁には「可燃ごみ」「不燃ごみ」というラベルが貼られ、一応それぞれのゴミの置き場所が定められている。

だが、明確な仕切りがないため、「不燃ゴミ」と「可燃ゴミ」の袋が混じりあってしまっていた。

――これを俺が仕分けなきゃいけないのか……。

秀和は愕然とした。マンション管理の仕事についた時から、ゴミ捨て場の掃除が仕事になることは理解していたし、覚悟もできていた。

ただ、事前に思っているのと、実際にやるのとでは話がちがう。マンション入居者が散らかし放題に散らかしたゴミ捨て場を惨状を目にすると、やる気がうせるのは仕方がなかった。

――俺は一応、役員まで務めた人間なんだぞ……。

そうは言っても、定年退職した以上はただの人だ。頭ではそう分かっているものの、人間、慣れ親しんでいないことには、どうしても精神的なストレスを感じてしまう。

――仕事だし、仕方がない……。

秀和は気持ちを切り替え、できるだけ前向きに考えるように務めた。