「あんたのほうで分別しといてよ」

そうやって秀和がゴミ捨て場の掃除をしているところに、若い男性がやってきた。パリッとしたスーツ姿で、ネクタイも締めている。これから出勤するところなのだろう。

スーツの若い男性はゴミ袋を手に持っていた。出勤前にゴミを捨てにきたようだ。

「おはようございます」

秀和が挨拶をしたが、若い男性はそれを無視した。

――挨拶くらいしたっていいのに……。

秀和はムッとしたが、マンションの住人は秀和にとって立派な顧客だ。あまり失礼な対応をすると、クレームが入り仕事を失う可能性もある。秀和は何も言わず黙っていることにした。

だが、彼が捨てようとしたゴミ袋を見た秀和は、つい一言言わずにはいられなくなった。

「あ、そのゴミ、ペットボトルが混じっちゃってますね……」

半透明のゴミ袋の中身はほとんどが紙ゴミだったが、清涼飲料水のペットボトルが数本混じっているのが見えた。

「ペットボトルはリサイクルなんで、袋から出してもらっていいですか?」

秀和が何気なくそう言うと、若い男性があえて秀和の耳に届くようにちっと舌打ちをした。

「俺急いでるんで、あんたのほうで分別しといてよ」

その上から目線の物言いに秀和はカチンときたが、ぐっとこらえ、冷静に告げた。

「ペットボトルだけ出してもらえれば、あとはこっちでやりますんで」

営業マンとしての経験を発揮し、できるだけ穏やかに言ったつもりだったが、若い男性の態度は変わらなかった。

それどころか、より険しい目つきで、さらに侮蔑的な言葉を投げつけてきた。

「うっさいな。清掃員の分際で、生意気なんだよ。ゴミ処理はあんたの仕事だろ? 金もらってる癖にサボろうとするなよ。こっちは毎月高い管理費を払ってる。このくらいやってくれて当然だろ?」

「な……」

秀和はショックを受けた。怒りで血が頭に逆流してくる。手がわなわなと震えた。

ただ、相手はあくまで顧客であり、面と向かって言い返すのは憚られた。秀和は煮えくり返る思いを嚙み殺し黙って耐えた。

「じゃ、頼んだよ」

そう言って若い男性は去っていった。秀和の目の前に、分別されていないゴミ袋が残された。

●66歳マンション管理人はなぜ嫌がらせを受けたのでしょうか。後編:【ゴミをまき散らし「掃除しろ」と迫る…66歳マンション管理人が遭遇した「最悪のモンスター住人」の素性】にて詳細をお届けします。

 

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。