「『高層階マウント』じゃなかった」

自治会から帰った慎一郎は、さっそく佳子に説明した。

「もしかしたら、美魔女が君に嫌がらせしてきたのは、『高層階マウント』じゃなくて、その憎い元部下を思い出すからだったんじゃないかって」

「ええ? まさか……」

「まあ、元部下と同じ人だとは思っていなくても、なんとなく似ていて、嫌われてしまったのかもよ」

「そんなことって……」

佳子は半分呆れてしまった。他人の空似で意地悪されただなんて、説明されても許す気にはなれない。

「まあ、でも、とにかく良かったじゃないの。もう嫌がらせされることはなさそうだし。このタワマンの高層階の人が、低層階住民を見下していたわけでもなかった、ってことだし」

「うーん、まあ、考えようによっては、そうかなあ……」

佳子は納得がいかない思いだった。高層階住民のマウントはやっぱり存在するような気もしていたからだった。

「まあ、とにかく、これから安心して暮らせそうだよ」

根が楽観的な慎一郎は、そういって笑っていた。

佳子は、これからは人に憎まれないよう、より言動に気を付けようと思っていた。そのためにマナーがあるのだから、マナー講師の自分が率先して印象良く振る舞わないと恥ずかしい。他人のマナー違反を注意してばかりで、自分のマナーがおろそかになっていた。そんな思いが芽生えていた。

そうやって反省することができたのは、「美魔女」のおかげかもしれない。

強いてそう思うようにして、この事件については忘れてしまおう、と佳子は考えていた。

 

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。