セクハラ・パワハラの処分が相次いでいた
A社は大手電機メーカーの子会社で、グループのカタログ制作などを請け負う、いわゆるハウスエージェンシーだ。入社6年目の赤城美乃里(38歳)は同社で制作ディレクターとして働いている。同僚の半分は中途採用だが、もう半分は親会社からの出向組で、管理職・役員の8割を出向者がしめている。
そんなA社では、ここ1年ほど、セクハラやパワハラといった不祥事による役員の退任が相次いでいた……。
「実は、佐藤専務のことを聞きたくてね」
出社早々、応接室に呼び出された赤城美乃里に、黒澤社長は深刻そうな表情を浮かべながら重々しく言った。
「はあ、佐藤専務ですか…?」
「実は、本社のセクハラ窓口に告発があったんだ。佐藤専務から業務外で不適切な誘いを受けた、という内容の」
「まさか、あの佐藤専務が……」
美乃里は驚いた。佐藤専務は61歳で営業担当の役員だった。中途採用だが、実績を積み重ねて役員まで出世した稀有な人材だった。仕事もできて、性格も真面目。部下の面倒見も良く人望があった。セクハラをするようなタイプには見えなかった。
「そう。私も、まさかとは思ったんだけどねえ。内密に調査したところ、全てではないにしても、一部は本当だったんだよ。証拠のメールも見つかった。だから、会社としては処分するしかないため、佐藤専務は本社の総務部に異動することになった。本社といっても、仕事はないから、事実上の左遷ということだな」
黒澤社長はさも困ったと言わんばかりに、腕組みをしてため息をつく。
「今年も売上目標未達だからねえ。いま佐藤くんに抜けられるのは本当に困るんだが……。本社が決めた以上は仕方がない」
「そうでしたか……。私も残念です……」
美乃里も神妙な顔で言った。彼女自身も、佐藤専務には仕事の相談などでお世話になってきた。これから相談する相手がいなくなると思うと、それだけでも憂鬱だった。
「今日来てもらったのは、佐藤専務がほかに不適切な言動を取っていなかったかを聞きたくてね。赤城さんだけでなく、仕事で関係があった人全員にヒヤリングしているんだ」
「いえ、そういうことはありませんでした」
美乃里はあわてて首を振った。
「そういうところを見たりしたこともない?」
「いいえ、ありませんでした」
黒澤社長はほっとした表情でうなずいた。
「そうか。それならいいんだ。ありがとう」
