<前編のあらすじ>

誠也さんには長男の明人さん、長女の里奈さん、次女の里穂さんの3人の子どもがいた。

このうち、長女の里奈さんと、次女の里穂さんに対しては、誠也さんは生前、マンション購入費用として金銭的援助を行っていた。

しかし長男の明人さんに対しては「しっかりしてるし、男だから大丈夫」と、金銭的援助をしていなかった。

しかも、誠也さんが作った遺言書には、この金銭的援助の分は相続に含めないという文言が入っていた。文字通りに実行すると、長男の明人さんだけが大きく損をしてしまうが……。

●前編:【「しっかりしてるし、男だから大丈夫だよ」亡くなった父が作成した「長男だけ差別した遺言書」がもたらした「家庭の悲劇」】

 

「そんなの不公平すぎるでしょう!」

遺言書を作ってから私は気が気でなかった。さながらいつ爆発するか分からない時限爆弾を抱えているような気分だった。

そんな中、誠也さんが亡くなり、その知らせが私にも届く。

そして、その知らせを私に伝えてくれた明人さんは「どう考えても不公平です」「……どういうことですか? 話を聞かせてください」と怒りをにじませていた。

そこから数日後……。明人さんと妹2名が私の事務所を訪れた。見るからにお堅いエリート風の男性、これが明人さんだ。そしておとなしそうな女性が2名。里奈さんと里穂さんである。

明人さんは開口一番、挨拶もせずに「なんでこんな遺言書を作ったんですか?」と怒りを含んだ声で私に問いかける。

怒りの矛先は、完全に私に向いていた。

里奈さんと里穂さんはうつむきっぱなしだ。時折顔を上げても申し訳なさそうな表情で私のほうを見るばかり。

彼女らの気持ちを知ってか知らずか、明人さんは続ける。

「妹たちは生前に多額のお金をもらってる。それなのに遺産は平等に分ける? いくら遺言書があっても納得がいかない!」

彼の気持ちも分からないでもない。だが私は心を鬼にして冷静に説明する。

「お気持ちは痛いほど伝わってきます。しかし、今回は誠也さんが明確に『考慮しない』と意思表示されています。その意思は法で保障された制度の範囲内のものあり、何人にもその意思を曲げさせることはできません」

だが明人さんの怒りは収まらない。

「そんなの不公平すぎるでしょう!」机にバンと拳をぶつけて私を怒鳴りつける。

これ以上の話し合いは無理か。そう思い話を切り上げようとしたところで、その怒りが突如里奈さんや里穂さんに向けられることになる。

「お前たち、分かってるのか?」そう言って明人さんは里奈さんを睨む。

「こんな状況で平然としていられるのか?」と里穂さんのことも睨みつける。

兄とはいえ男性に睨まれて恐怖を感じない女性は少ないだろう。里奈さんも里穂さんも何も言えずにうつむいている。
私はこの瞬間、兄妹の関係が決定的に崩壊したことを悟った。そしてその日はまともな話し合いにはならず、ほどなくして解散。私はこれ以降、明人さんとは会っていない。