遺言書があれば相続でもめることはない。安易にそう考えてはいないだろうか。

実際、遺言書は相続トラブルを防ぐ有効な手段だが、作成後に長期間放置していたせいで、逆に遺言書の存在が争いの火種になることもある。
今回は、ある父親が息子の金銭問題を案じて作成した遺言書が、後にまったく別の理由から争いを生み、親族を長く振り回すことになった事例を紹介しよう。

「息子を更生させたい」父親の願い

亡くなった正紀さんには長男の裕翔さんがいた。裕翔さんは少々度が過ぎる面があり、若いころからたびたび問題を起こし、その都度正紀さんにお金を借りていた。

まず最初の問題は、裕翔さんが一人暮らししていた専門学校の在学中に起こしたバイク事故だった。そこから堰を切ったように生活費を借りたり、ついにはギャンブルで作った借金の穴埋めをさせたりと、裕翔さんが卒業するころには、正紀さんからの借入額が合計400万円を超えていた。

正紀さんが親として、裕翔のことを心配するのも無理はない。10代のころから裕翔さんと交流があった私ですら当時は心配していたくらいだ。実の親が心配しないはずがない。
「このままでは、裕翔は一生お金にだらしないままではないか」
私にそんな悩みをこぼすほど不安に思っていた正紀さんは、遺言書の作成を私に依頼したのだった。

私は驚きながらも「わかりました。やりましょう」と、了承したのだが、遺言書にある条件を盛り込みたいという正紀さんの提案に頭を抱えた。