<前編のあらすじ>
新社会人の麻紀は、過保護な両親のもとを離れ、県外で念願の1人暮らしを始める。引っ越し当日から自分だけの空間を手に入れた喜びに浸っていた。
入社後、仕事の気疲れを理想の部屋づくりで解消するようになった麻紀は、ソファや棚、調理家電など次々と買い物を重ねる。社宅で家賃が安いことや学生時代の貯金をあてにして、クレジットカードでの出費を続けた。
ゴールデンウイーク明けには貯金をほぼ使い果たしていたが、麻紀は気に留めなかった。そんなある日、寄り道した帰りに交差点で交通事故に遭ってしまった。
●前編【「家賃安いし、ちょっとくらい大丈夫」念願の1人暮らしに舞い上がった新社会人に思いもよらぬアクシデント】
病室で突きつけられた現実
週が明けた月曜日、麻紀は病室のベッドで上半身を起こし、窓の外の空を眺めていた。
主なケガは、右足の骨折と全身打撲。命に別状はない。しかし、倒れた拍子に頭を打ったこともあり、1週間ほどは検査入院が必要らしい。
ギプスが外れるまで4~6週間。退院後もしばらくは自宅療養になるという。
「いった……」
紙コップに手を伸ばす。たったそれだけの動作ですら、ひどくおっくうだった。
そのとき、枕元のスマホが震えた。会社の総務部からだ。麻紀は喉の渇きを覚えながら、通話ボタンを押した。
「はい、坂本です」
「体調はどうですか」
「おかげさまで、なんとか……すみません。ご迷惑をおかけして」
「いえ、仕事のことは気にしなくて大丈夫です。坂本さんは療養を優先してください」
優しくも事務的な口調に、麻紀は反射的に背筋を伸ばしていた。
「ありがとうございます……」
「それで、お休み中の手当のことなのですが……今回は労災の対象外となるので、傷病手当金の申請書をお送りします。記入したら、会社の健康保険組合宛に返送してください」
「……はい、分かりました」
通話が切れたあとも、その一言だけが耳の奥に残った。
『今回は労災の対象外となるので』
