<前編のあらすじ>

米農家に嫁いで15年になる恵理は、夫・典文を白血病で亡くし、義母・志乃と2人で暮らしている。志乃は昔から嫌味が多く、典文の死後はそれを止める人もいなくなった。それでも同じ喪失を抱える義母を邪険にはできず、恵理は黙って日々の生活を続けていた。

3月に入り、米作りの恒例行事「農事始め」の準備が始まる。親戚や近隣の農家を招いて料理を振る舞う大切な行事で、恵理は志乃に何度も念押しされながら、準備を進めていく。

ところが農事始めの直前に、志乃がぎっくり腰で動けなくなってしまう。2人で行うはずだった料理の仕込みや段取りをすべて1人で引き受けることになり、恵理は覚悟を決めた。

●前編【「忘れてたなんて許さないよ」夫を失った嫁に追い打ちをかける義母…それでも逃げなかった理由

嫌味が戻ってきた朝

翌日の昼に恵理は試作のお事汁を完成させることができた。味見をして思ったような味付けができたことにうなずいた。

すると部屋から志乃の呼ぶ声が聞こえて、恵理は火を止めて急いで志乃のところに向かった。部屋に入ると志乃は厳しい目でこちらを見てきた。

「何をやってるんだ? 呼ばれたらすぐに来てくれないと困るよ。大声を出すだけでこっちは腰に響くんだから。まさかわざとやってるんじゃないだろうね」

今朝になって少しだけ痛みが和らいだことで志乃の嫌味も復活していた。

「すみません。台所で調理をしてたので」

「お事汁はできた?」

恵理はうなずいた。

「じゃあ味見をするから。まずはトイレに行くよ」

そう言われて恵理は肩を貸して志乃をトイレに連れて行った。トイレが終わると志乃を居間に連れて行き、こたつに座らせた。

「こたつが冷たいね。こんなところに座らせられたら凍えちゃうよ」

「お義母さんが起きてくるなんて思わなかったんですよ」

恵理は説明をして台所に向かった。

ちょうど昼ご飯の時間だったこともあり、お事汁と白ご飯と目玉焼きを出した。志乃は出されたお事汁を口に付けてこちらを睨み付けてきた。

「こんなものを出すつもりだったのかい……⁉」

「……何か問題ありましたか?」

志乃は箸でお椀の縁を叩いた。

「味が薄すぎる。こんなの飲まされるのなんて単なる嫌がらせじゃないか。それにゴボウも歯ごたえが残りすぎてる。年寄りだって来るのにこんな食べにくいものを出すんじゃないよ」

志乃はため息をつく。

「やっぱり私がいないと何にもできないんだね。どうしてこんなときにぎっくり腰になんてなるのか……。こんなものを出すくらいならインスタントの味噌汁を出した方がマシだよ」

朝早く起きて作ったものをここまで酷評されると、恵理はさすがに怒りを覚えた。

自分が作ったものが間違ってると思っていない。嫁いできて15年間、志乃と一緒にお事汁は作り続けてきたのだ。志乃がメインで作っていたとはいえ、味付けや材料の種類、切り方に至るまですべてを見て、手伝い、そのたびに嫌味を言われ、勉強してきていた。

志乃はひと口食べるたびに、文句を言い続けた。恵理はそのほとんど罵声に近い言葉の応酬に、じっと耐え続けた。