晩ご飯を食べた後、夫の孝と美月はリビングのソファに座り思い思いの時間を過ごしていた。
お互いが30代の中盤を迎え、結婚してもう8年になる。新婚のときのような浮きたつ気持ちはとっくになくなったが、大きな喧嘩もなく平穏な毎日を過ごしていた。
義父母へのお歳暮選び
美月はふと思い立ち、隣に座る孝にお歳暮特集の記事が載っている携帯画面を見せる。
「ねえ、お歳暮はどうする? お義父さんとお義母さんに送りたいんだけど」
「ああ、もうそんな時期か……去年は何だっけ? 肉を送ったんだよな」
「そうそう。でも2人とも高齢だし、さすがにお肉はなかったなって後で反省したから、今年は別のものにしようと思ってね」
「ああ、まあそうか。なんか考えてるの?」
「まあビールとか? お義父さん、お酒大好きだったしね」
美月の答えに孝は同意した。
「それでいいんじゃない? 多分それで文句はないと思うよ」
孝の賛同も得られたので、美月はビールとカニのセットを通販で購入し、義実家に送ることにした。
発送してから3日が経ったころ、美月が仕事から家に帰ってきたタイミングで携帯が震えた。画面を見ると義母の加代の名前が表示されていた。加代が直接美月に電話をかけてくるのは珍しい。そこでお歳暮の件だろうと思った。
「あなた、どういうつもりなの……⁉」
開口一番、電話口の加代の声は、声色だけで怒っていることが伝わってくるものだった。
「あ、はい、どうかされましたか……?」
「今ね、あなたから届いたお歳暮の中を確認したのよ。そしたらカニとビールのセットだったわ……! これって何なの……⁉ 嫌がらせってこと? だとしても悪質過ぎるわよ……!」
美月は加代が何にそんなに怒っているのかが分からなかった。カニは嫌いだっただろうかと、頭のなかで記憶を反芻する。思い出すのは義父母の金婚式のお祝いで孝と4人で旅行に行ったときのことだ。2人とも夕食に出てきたカニをおいしそうに食べていたはずだ。
美月は戸惑いながら加代に質問した。
「……お義父さんがビールがお好きだったので、それに合うカニと一緒に送らせてもらったのですが、何かまずかったですか……?」
