<前編のあらすじ>
友人の依子に誘われて初めての海外旅行でソウルを訪れたひかりは、焼肉店の後にクリニックへ連れて行かれ、あまり興味のなかった美容施術を受けることになった。
戸惑いながらもスキンケア施術を初体験したひかりは、その後も依子が予定に組んだ美容スケジュールに付き合うことに。
帰国後職場で同期の森下から「肌がきれいになった」と褒められ、ひかりは嬉しさを感じる。今まで興味のなかった美容の効果を実感したひかりは、給湯室の鏡で自分の肌を確かめ、体の中で何かスイッチが入ったような感覚を覚えた。
●前編【「そういうのは別に」美容に興味ナシの30代女性、韓国美容旅で起きた「予想外の心境変化」】
彼が気づいた表情の変化
退勤後、ひかりは駅前の改札で恋人の大樹を待った。月曜の夕方は人が多く、肩がぶつかるたびに少し気が滅入る。彼が現れて手を振ると、ひかりはようやく息を吐いた。
「おつかれ。あ、メイク変えたの?」
「いつもと同じだよ」
「そう? なんか、つやつやしてるよ」
2人は近くの店に入った。
席に着くと、ひかりは水を飲み、頬に手を当てないよう意識した。立て続けに褒められたせいか、どうにも今日は触って確かめたくなる。
「韓国、楽しかった?」
「食べ物が美味しくて最高だった。あと、依子に連れられて、肌の施術も受けたの」
「施術?」
「うん、なんか毛穴を掃除して整えるみたいな」
彼は少し驚いた顔をしてから、笑った。
「それでか。若く見える」
「若く、って……」
「ごめん、悪い意味じゃないよ。でも、健康的っていうか、表情が明るい感じがする。会ってすぐ分かった」
ひかりは照れをごまかすように、箸で料理を寄せた。
昔から褒められることに慣れていない。特に見た目のことを言われると、反応が大きくなってしまう。
食事の途中、彼がひかりの顔を覗き込むように見た。
「触っていい?」
「だめ。こすらないでって言われた」
「徹底してるね」
「説明に書いてあったから」
ひかりを見つめる彼の視線がいつもより柔らかい気がした。
「じゃあね。お土産ありがとう」
「うん、また今度」
大樹と別れて帰宅すると、ひかりは洗面台の鏡で自分の顔をじっと見つめた。同期と恋人から立て続けに言われた台詞が頭の中で繰り返される。今まで興味の持てなかった美容の効果によって、人から褒められ、高揚しているのが自分でも分かった。「肌管理は必須」と言っていた依子の顔が浮かぶ。
「そうかもね」
入念にスキンケアを済ませてから、ひかりはスマホを開いた。
国内で受けられる美容医療について検索してみると、画面には「大人の肌管理」「ダウンタイム少なめ」「自然なトーンアップを目指す」といった謳い文句がずらりと並ぶ。
「わあ……クリニックってこんなにあるんだ」
新しいページを開くたびに「今だけ割引」「初回限定」が目に飛び込んでくる。あちこち目移りしながらも、ひかりは比較サイトを参考に、口コミを読み、予約の空き状況を確認していくと、その流れで通販の画面に辿り着いた。
「そっか、ホームケアって手もあるのか」
自宅用の美顔器、パック、導入美容液。値段にはかなり幅がある。迷った末、結局、手が出しやすいものを数点カートに入れた。合計金額は、3万8000円。
「まあ……これくらいなら」
自分に言い聞かせて、購入を確定する。すぐに確認メールが届いたのを見届けると、ひかりは灯りを消してベッドに入った。
