<前編のあらすじ>

スマホを使って息子夫婦や孫の莉乃とやり取りすることを楽しみにしていた喜代子。友人ともSNSでつながり、花や夕飯の献立を投稿する習慣もできた。

莉乃の運動会でも写真を夢中で撮影し、里美と隆二にその写真を送って喜ばれていた。喜代子は友人たちにも莉乃の晴れ姿を見てもらいたいと思い、SNSにも投稿したところ、その日の夕方、里美から突然電話がかかってくる。

里美は、相談もなく莉乃の写真を公開したことを厳しく責め、今すぐ削除するよう求めてきた。息子の隆二からも「今後一切、莉乃の写真は撮らせない」と言い切られてしまい、ショックを受けた喜代子だった。

●前編【「どうして勝手に載せたんですか」孫の写真投稿で祖母が凍りついたSNS地雷の代償

反省の糸口を探す喜代子

翌日も、その次の日も、スマホは鳴らなかった。喜代子は用もないのに、何度も画面をつけた。里美から莉乃の写真が届くことも、隆二から短い返事が来ることもない。

「また見てるのか」

夫が新聞越しに言った。

「だって……」

「連絡が来たら音が鳴るんだろ」

「そうなんだけどね」

喜代子はスマホを伏せた。しかし、手を離しても気持ちはそこに残ったままだった。

あのとき、里美と隆二は本気で怒っていた。

「今後一切、莉乃の写真は撮らせない」

その台詞を思い出すたび、喜代子は息が詰まった。

正直、悪いことをした自覚は薄かった。可愛い莉乃の姿を友人たちと共有したかっただけだ。しかし、里美と隆二があれほど怒った以上、自分は何か大事なことを間違えたのだろう。

「少し外に出てくるわ」

昼食のあと、喜代子は立ち上がった。

「買い物か」

「ええ、ついでに地区センターにも寄ってくる。回覧板に、書道の展示があるって書いてあったでしょう」

本当は展示を見たいというより、家の中にいるのがつらかった。スマホの鳴らない静けさから、少しでも離れたかったのだ。

地区センターの入口には、講座や催し物の案内が並んでいた。

手芸教室、健康体操、囲碁の会。喜代子は何となくそれらを眺めながら歩いた。すると、掲示板の端に貼られた1枚の紙が目に留まった。

「高齢者向けネットリテラシー講座」

「スマホ・SNSを安全に使うために」

「写真投稿の注意点、個人情報を守る方法」

写真投稿、という文字が目に入った瞬間、里美の声がよみがえった。

「どうして勝手に載せたんですか」

喜代子が案内の前に立ったまま、しばらく動けずにいると、受付の女性が声をかけてきた。

「ご興味がありますか」

喜代子は少し迷ってから、うなずいた。

「……ええ。でも私にも分かる内容でしょうか。スマホは、まだ覚えたばかりで」

「大丈夫ですよ。基本からお話ししますし、初心者の方向けの講座なので」

その言葉に、喜代子の心が小さく揺れた。もしかしたら、自分が叱られた理由が分かるかもしれない。

「申し込みをお願いできますか」

「はい。こちらにお名前をお願いします」

差し出された申込用紙に自分の名前を書くと、頭の中に立ち込めていた靄が少しだけましになった気がした。