<前編のあらすじ>

永瀬藍子は36歳。江東区の公団住宅で夫の永瀬浩一(45)と子ども2人と暮らしている。

もともとフルタイムの仕事を持っていたが、2人目の出産のタイミングで、兼業主婦になった。今は近所のスーパーでパート従業員として働いている。

スーパー勤務も長くなり、現場リーダーを任されるようになっていた。

そんなある日、お客様が激高し、男性パート従業員の佐藤敏雄に詰め寄って暴れるという事件が発生した。

永瀬藍子は現場リーダーとして、トラブル対応にあたったのだが……。

●前編:【「年金をたんまりもらってるくせにセコいことするな」と言われた…スーパーで暴れたカスハラ男の「仰天言い訳」】

「ビニール袋を大量に取っていこうとした?」

永瀬藍子はあらためて、激高しているお客様を観察した。男性で、年齢は70代くらいだろうか。茶色のニットキャップを被っている。

腕には黒いショッピングバッグをかけていて、中には人参や大根など野菜が少し入っている。ただ、バッグの中から大量のビニール袋がはみ出しているのが永瀬藍子の目を引いた。

ピンときた永瀬藍子は、佐藤敏雄にそっと耳うちする。

「もしかして、お客様、ビニール袋を大量に取っていこうとした?」

すると佐藤敏雄は2回もうなずいた。

なるほど、と永瀬藍子は思った。

スーパーでは、水っぽい商品の梱包用に、無料のビニール袋を提供していたが、昨今のナフサ危機でビニール袋も不足していた。そのため、4月から「ビニール袋は1人1枚」とルールを決め、売り場にも掲示していたのだった。

ただ、それでもお客様の中には、自宅で使う目的で、ビニール袋を大量に持って帰ろうとする人もいた。そんなお客様を見かけた場合は、やんわり注意してもよいことになっていた。

――佐藤さんはやんわり注意したんだろうな……。

永瀬藍子はそう思った。佐藤敏雄は大人しい性格で、初対面の人に食ってかかるようなタイプではない。

――とにかく、お客様に非があるのは間違いなさそう……。

永瀬藍子はそう思い、お客様にどういう言い方をすればいいか考えはじめていた。