<前編のあらすじ>

白岩和隆は都内湾岸エリアに住む67歳の医師。妻・ひとみ(62歳)と二人暮らしをしている。

タワマン生活を楽しんでいたが、最近、妻のひとみが、ベランダに干した洗濯物から、タバコの臭いがすると言い始めた。

医師の和隆も、妻のひとみも、タバコは苦手だった。洗濯物がタバコ臭いのは、下の階の住人がベランダでタバコを吸ったせいだ、そう考えた和隆は、注意するために下の階を訪れた。

だが、ドアを開けて出てきたのは、全身に刺青をいれた男だった……。

●前編:【タワマンの一室から「ヤクザ風の男」が登場…「洗濯物がタバコ臭い」で悩む67歳タワマン住民の災難】

マンションの一室からあらわれた「全身刺青の男」

「何の用ですか?」

全身刺青の男が、和隆の正面にたち、怪訝な目でこっちを見ている。

口調こそ穏やかだが、逆にそれが、どことなく凄味のようなものを感じさせた。

和隆は脇に冷たい汗が流れるのを感じた。

「あ、あ、あの……、そのう……」

和隆は口ごもった。何か言おうと思いはするものの、思うように言葉が出てこない。

――単に、ベランダでタバコを吸わないでくれ。そう言いにきただけじゃないか。相手が怖そうでも、理はこっちにある。ビビらずにきちんと言うことは言おう。

そう決心すると和隆は言った。

「あの、タバコ、やめてもらいたくて」

「はあ? タバコ?」

刺青の男がぽかんと口をあける。

「はい。私は上の階の住人なんですが、ベランダに干しておいた洗濯物が、タバコ臭いんです。ベランダでタバコを吸わないでもらえると」

和隆が言っている間、男の表情がみるみる険悪になっていく。

「一体何の話だよ。タバコなんて吸ってねえよ。勘違いじゃねえの?」

男の言い方には迫力があった。さっきまでの自信はどこへやら、和隆は再び怖くなってしまった。

「ちょ、ヤクザだからって、ぼ、暴力はやめてください」

「何もしてねえだろ。だいたいヤクザじゃないし。勝手に決めんなよ。帰ってくれ!」

男はドスのきいた声で言うと、いきなりドアをしめた。ガチャリと鍵をかける音が聞こえる。

――ヤバいことになってしまった……。

和隆は急に怖くなった。この手の人を怒らせたら一体どうなるのだろう。コンクリート漬けにされ東京湾にでも沈められるのだろうか。

そう思うと和隆は震え上がってしまったのだった。