夜、仕事から帰ってきた母の実代子が珍しくケーキを買ってきてくれた。彩佳が大学を卒業したお祝いとのことだった。

「彩佳も大学を卒業して一人前になるのね。なんだかあっという間だったわ。ランドセルを背負って登校していたのが、つい最近のことに感じられるわ……」

「いや、さすがにそれはないでしょ」

ショートケーキを食べながら、彩佳は苦笑した。

「本当よ。あなたも人の親になったらわかるわ」

「お母さんが私を産んだのは26のときだよね。私があと4年で結婚、出産なんて考えられないな」

「……まずはちゃんと仕事を頑張ってほしいわ。じゃないとお母さんが無理して大学まで行かせた意味がないんだから」

「……まあそうだね」

彩佳はうなずきながらケーキを口に運んだ。

両親が離婚したのは彩佳が小学6年生のときだった。理由は分からないが、ずっと前から険悪だった2人が別れることになり、子どもながらにショックだった一方、納得もできた。それに、両親が別れたからといって、父との関係が完全になくなったわけでもなかった。彩佳は実代子といっしょに暮らすことを選んだが、月に1度、父と会うことができた。彩佳が高校2年のときに病気で亡くなってしまうまでは、誕生日や進学の節目にお祝いもしてくれた。

「ああ、そうだ。約束してた通帳とカード、ちょうだい」

彩佳がそう言うと柔和だった実代子の顔がこわばった。