母の干渉から離れたい娘

「……通帳?」

「そう。私のお年玉とかを貯めてる口座があるでしょ。卒業したら私に管理させてくれるって言ってたじゃない」

実代子は軽くため息を吐いた。

「そんなお金の話は今はやめてよ。せっかく懐かしい気分だったのに……」

「大事なことだから忘れないうちにもらっておこうと思って」

彩佳が言うと、実代子は気だるそうに立ち上がり、リビングを出ていった。

それからしばらくして戻ってくると、通帳とキャッシュカードと印鑑の3つを渡してきた。

「はい。無駄遣いしないようにね」

そう言うと、実代子はさっさとケーキを食べ終え、洗い物をしに行ってしまった。明らかに不機嫌になっているのが分かった。

彩佳はバレないようにため息をついた。実代子は気分屋で、ちょっとでも自分の思い通りにならなかったり、気分を害するようなことがあると、あからさまに機嫌を悪くするところがある。

おまけに、心配性なのか何なのか、彩佳のやることなすことにいちいち口を出してくるから、たちが悪かった。進路や就職先のような大きな決断ならまだしも、高校の制服のスカート丈や化粧の仕方などでも、彩佳は何度も実代子とケンカをした。

父から養育費を受け取り、父の死後には彩佳宛ての遺産があったとはいえ、女手一つで自分を育ててくれたことには感謝している。けれど、そんな関係に息苦しさを覚えていた彩佳は、早く実代子のもとを離れたいと思うようになっていた。

だから、彩佳にとって通帳などを手に入れることはとても大切なことだった。これでようやく自由になれる。独り立ちして、実代子に必要以上に干渉されずに暮らすのだ。

そう思いながら、通帳とキャッシュカードと印鑑を握る手にわずかに力を込めた。