80万円の使途を母へ確認

その日の夜、彩佳は夕食後に銀行アプリの取引履歴を開き、実代子に見せた。向かいに座ってお茶を飲んでいた実代子は、わずかに眉をひそめる。

「何よ?」

「昨日もらった通帳、アプリに移したら、細かい出金がいっぱいあったんだけど……何に使ったか知りたくて」

彩佳の質問に実代子は視線をそらしながら答えた。

「いろいろよ。生活をしてたらお金がかかるんだから」

「いろいろって?」

「そんなの、いちいち覚えてないわよ。とにかく必要な出費だったの」

はぐらかす実代子に彩佳は食い下がった。

「でも学費とかで使うときは、いくら使うからって私に教えてくれてたよね? でも、このお金のことは聞いてないよ?」

「そんな大した額じゃないんだから、いいじゃない。そんなに細かいことまで毎回あんたに言わないといけないの?」

実代子はイライラした口調で返してくる。彩佳は怒っている実代子に少し恐怖心を抱いたが、それでもきちんと説明をしてもらいたかった。

「これは私がこれから暮らしていくために、小さい頃から貯めてきたお金でしょ。だから何に使ってたのか、ちゃんと知りたいよ」

「だから覚えてないって言ってるでしょ……⁉」

「記憶にも残らないようなものに使ったってこと?」

「何よ⁉ 私が全部悪いみたいな言い方して!」

実代子の怒鳴り声がリビングに響いた。彩佳は思わず息を飲んだ。

「……悪いなんて言ってないじゃない。ただ説明をしてほしいだけだよ……」

彩佳はか細い声を絞りだした。しかし実代子のあからさまな不機嫌さを滲ませたため息がそれをかき消していくようだった。

「私が彩佳を育てるために、どれだけ苦労したか分かってる……⁉ 大学まで行かせて、生活の面倒も見て……。私が彩佳のために使ったお金と時間のこと、ちょっとは考えたらどうなの?」

実代子はそう言うと、まるで自分が被害者であるかのように肩を震わせて泣き出してしまった。彩佳は暗くなった画面に目を落とし、深いため息をついた。

●大学卒業を機に、母・実代子から自分名義の通帳を受け取った彩佳。しかし口座を確認すると、亡き父が遺したお金を含む約80万円が知らないうちに引き出されていた。使途を尋ねても実代子は説明を拒み、「育てるためにどれだけ苦労したか」と泣き出してしまう…… 後編【父の遺産を含む80万円が消失…「生活のため」と開き直る母に娘が選んだ最終手段】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。