富裕層との人脈づくりに励むIT企業の事業部長
海野康平は44歳。都内のIT企業で事業部長を務めている。妻の真奈美(37)およびまだ小学生の娘2人と暮らしている。
以前は川崎市のマンションに住んでいたが、昨年、担当したアプリが大ヒットしたことで、功績を認められて大幅に昇給していた。また、あくまで内定ではあるが、来期からは執行役員に昇格することも決まっていた。
収入が増えたのをきっかけに、住んでいた川崎のマンションは賃貸に出して、新たに都内のタワマンを購入して引っ越すことにしたのだった。
都内世田谷区のタワマンに住み始めて約半年ほどになるが、康平は新しい生活に満足していた。品川にある会社までの通勤時間が短くなったメリットは大きかった。また、多摩川の東側に引っ越したことで、住環境の向上を実感していた。お洒落な飲食店が多く、週末になると近所を散歩するだけでも楽しく過ごすことができた。
何より、2人の娘の教育環境が良くなったことが最大の安心材料となっていた。
何よりも、同じタワマンに住んでいる富裕層との交流が、康平の仕事に役立っていた。康平の入居したタワマンには、外資系企業の経営層や、一代で財をなした起業家なども住んでいた。タワマン内の人間関係はドライではあるが、たまに開催されるイベントなどでそうした富裕層と接する機会もあった。康平はそうしたイベントにまめに参加し、富裕層との人脈づくりに励んできた。
そうした努力が実り、アプリ開発について康平に意見を聞きにくる関係の経営者や、実際に発注してくれた経営者もちらほらあった。康平にとって少し背伸びをして購入したタワマンではあったが、新規獲得にも貢献しているため、その点でも満足していたのだった。
「もっと富裕層との付き合いを広げたい」
「もっとタワマン内の富裕層との付き合いを広げたい」
そう思っていた康平にとって、タワマンで夏休みの終わりに開催されるバーベキュー大会は、まさにうってつけの場だった。
康平自身、焼肉やステーキが好きで、自分で焼くこともしばしばあった。「肉好き」をアピールし、康平はイベントの実行委員でもないのに、自分から手をあげ、事前の調整や周知活動、当日の運営まで進んで手伝っていた。
もちろん、本当の意味でバーベキューを楽しみにしていたというより、タワマン内の富裕層に自分の名前と顔を売り込むことが目的ではあった。
ある意味、不純な動機で参加していたとも言える。
康平がトラブルに巻き込まれたのは、そのためだったのかもしれない。
