<前編のあらすじ>

73歳の母・春枝と買い物へ出かけた祐子。4年前に夫・雅彦を亡くしてから、春枝は以前できなかったおしゃれや旅行を楽しむようになり、祐子もそんな母の変化をうれしく見守っていた。

その日もデパートで洋服や食料品をたくさん買った春枝は上機嫌だった。少し買いすぎではないかと思いつつも、祐子は亡夫が残した貯金や生命保険があるのだから大丈夫だろうと考え、何も言わなかった。

春枝の家で祐子はテーブルの端に置かれた郵便物の中から「督促状」を見つける。楽しそうに買い物をしていた母と督促状が結びつかず、祐子は思わずその場で固まってしまう。

●前編【「ついつい買い過ぎちゃったわ」73歳母のおしゃれを喜ぶ娘…実家で目にした“まさかの督促状”】

母の危機感のなさに戸惑う娘

祐子が封筒を手に持っていると、春枝が台所から戻ってきた。

「お湯が沸くのにもうちょっと時間がかかるから待っててね」

「あ、あのさ、これって何なの?」

祐子はそう言って封筒を春枝に見せた。封筒を見た春枝は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑顔を作った。

「ああ、それね。そこに置いておいてちょうだい」

「……これ督促状だよ。お母さん、借金してるの?」

「ええ、そうね」

「そうねって、そんな簡単に言わないでよ……。だってお父さんが貯金を残してくれたし、生命保険だってあったはずよ。それなのになんで借金なんてするのよ?」

「いろいろとあるのよ。あなたはそんなの気にしなくていいの」

「いくら借金してるの?」

春枝は首を横に振った。

「そんなのいちいち言う必要はないでしょ」

「……借金があるなら返済しないとダメじゃん。それなのにあんなに買い物してよかったの?」

母に不安を募らせる祐子

祐子は春枝が購入していたものを思い返した。生命保険や貯金がまだあると思っていたが、借金をしながら好き勝手にものを買っていたのかと思うと信じられなかった。

「大丈夫だって。何とかなるから。そんな怖い顔しないでよ」

「心配して言ってるのよ。お母さんに何かあったら困るから」

祐子は思わず声を強めた。

春枝は観念したかのように祐子を見た。

「大丈夫よ。私はもう73歳なのよ。そんな何十年も生きるわけじゃないんだから返済もしなくていいじゃない」

春枝の言葉に祐子は耳を疑った。

「……それ本気で言ってるの?」

さすがにマズいと思ったのか、春枝はすぐに意見を変えた。

「いや、もちろん冗談よ。ちゃんと返すつもりはあるから。だから心配しないでいいからね。はい、この話はこれで終わり。お茶を淹れるから美味しいクッキーを食べましょう」

そう言って春枝は軽い足取りで台所に行ってしまった。

春枝の背中を祐子は呆然と見ていた。

母が楽しそうに暮らしていることを祐子は喜んでいた。しかし借金までしていたと知り、今まで気付かなかった自分に戸惑っていた。何より春枝自身に危機感がないことが心配だった。

祐子はため息をついて、出された紅茶を一口飲んだ。せっかく淹れてくれた紅茶だったが、祐子にはその味がまったく分からなかった。