母が勘違いしていたこと

「またそれ? 死んだら借金がなくなるとでも思ってるの?」

「だって私がいなくなったら、借金を返す人もいなくなるでしょ?」

祐子は首を横に振った。

「あのね、借金も相続されるの。お母さんにもしものことがあったら、私が代わりに返済をしないといけなくなるの」

「……え?」

春枝は目を大きく開いて固まった。

「もちろん相続放棄をすれば借金を引き継がずに済む。でも、そうしたらこの家だけを相続することもできなくなる。どっちも私にとっては最悪なことなの」

「……そうなんだ」

祐子は春枝の目を見て話した。

「家族の思い出が残ってるこの家を私は手放したくなんてないの」

祐子の言葉に春枝は背中を丸めて視線を落とした。

「今ならまだ間に合うよ。私も協力はする。だからお母さん自身で借金を返済して。そしてこれからは無駄な買い物はしないようにして」

「……ごめんなさい。こんな歳になってほんとに情けないわね。あなたたちに迷惑かけて……。本当にお父さんに怒られちゃうわ」

「大丈夫だよ。ちゃんと借金を返せばお父さんだって怒ったりしないから」

祐子がそう言うと春枝はゆっくりとうなずいた。

それから祐子は春枝と一緒に家計を見直した。春枝が使っていない洋服やカバンなどを売って、それを返済に充てると言ってくれたので、借金の額は70万円ほどになった。残りは年金から毎月、2万円ずつ返済をすることになった。祐子も定期的に実家を訪れ、春枝が無理なく返済を続けられているか確認するようになった。

自身の力で返済を始めることに

その日、祐子は春枝を自宅に招き、宏昌と3人で食卓を囲んでいた。春枝は祐子の作った料理を美味しそうに食べながら、宏昌と楽しそうに話をしている。

父が亡くなってから母には残りの人生を楽しんでほしいと思っていた。その気持ちは今でも変わっていない。ただ、だからといって好きなだけお金を使っていいわけではないし、その責任を娘である自分が負う必要もない。これからは春枝自身に生活を立て直してもらいながら、こうして一緒に過ごす時間を大切にしていきたい。

祐子は楽しそうに笑う母を見ながら、そんなことを考えていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。