金曜の夜、伊織は夫の信吾と2人で夕食を食べていた。物流会社で仕事をしている信吾は帰りが遅く、医療機器の会社で働いている伊織と平日に2人で夕食を食べる機会はあまりなかったが、今日は信吾が早く帰ってきたことで一緒にご飯を食べることができていた。

結婚して10年近くが経ち、お互いに30代も半ばを過ぎていたが、これといったケンカをしたことは一度もなく、休みの日には一緒に買い物へ出かけたり、こうして帰宅時間が合えば晩酌をしながらゆっくり過ごしたりと、夫婦仲は良好だった。

憂鬱に感じる帰省

伊織はシチューを食べながら来週に迫った帰省の話を信吾としていた。

「弟さんたちも来るんだよね?」

信吾はビールを口につけながらうなずいた。

「ああ。家族で来るみたいだよ」

毎年、お盆には信吾の実家に帰るのが決まりとなっていた。ただ、伊織は義実家に帰省するのがあまり気乗りしなかった。

「またどうせ弟さんたちばかりを可愛がるんでしょうね」

「別にいいよ。そんなの昔からだから」

信吾は笑って流したが、伊織としてはそういうわけにはいかなかった。

義母の一恵は信吾ではなく、弟の義弘だけをひいきして可愛がるところがあった。何か嫌味を言ってきたりするわけではないが、とにかく扱いに露骨な差があるのが嫌だった。加えて、そのひいきは義弘が結婚して子どもが生まれてからはさらにひどくなっていた。

「それを見せられる私は気分悪いわよ。旦那をないがしろにされてるんだから」

「義弘はやんちゃで手がかかったからな。母さんとしてはいつまでも心配なんだろ」

信吾はそう捉えているらしいが、伊織には信吾のことを冷遇しているようにしか見えなかった。

「信吾は仕送りだってしてるのよ? もうちょっと感謝とかないのかしら……」

一恵は6年前に義父が亡くなり1人で生活をするようになると、将来が不安だからという理由で信吾に仕送りをせがむようになった。以来、信吾は毎月5万円を振り込んでいるのだが、感謝の言葉も態度も伊織が見たことは一度もなかった。

共働きをしていることもあり今の生活に困ることはないが、伊織たちは将来を見据え、今住んでる賃貸マンション出てもう少し広くて条件のいい中古マンションを購入しようと考えている。長男である信吾が母親想いなのは悪いことではないとは思っているものの、マンションの頭金やローン、さらにその先の貯蓄のこともある。

そんななかで決して多いとは言えない給料から仕送りをしているのだから、なんというかもう少し感謝の態度のようなものが示されてもいいのではないかと伊織は思うのだった。