「客をバカにしやがって……」

「私そんなこと言ってません! 年金もあるし収入はあるんだから、ルールを守ってくださいね、って言っただけです」

「とにかく、これ以上暴言をはかれるようなら、警察を呼びますよ?」

永瀬藍子が断言すると、ニットキャップの男は悔しそうな表情を浮かべた。

「この野郎、客をバカにしやがって……、覚えてやがれ!」

そう言って、ニットキャップの男はスーパーを出ていった。ビニール袋で一杯のショッピングバッグを持ったまま……。

「言い方に気を付ける余地はあったかもしれませんね」

「ありがとうございました。永瀬さんのおかげで助かりました」

バックヤードに移動したあと、佐藤敏雄はそう言って永瀬藍子に頭をさげた。

「いえいえ、暴力を振るわれたりしなくてよかったですよ」

永瀬藍子は言った。お客さんが怒りのあまり従業員に怪我をさせるケースもあると聞いていたので、その思いは本心だった。

「今回の件、やっぱり私が悪かったと思います」佐藤敏雄が神妙な顔で言った。

「お客様が言ったように、『たんまり年金をもらってる』なんて言い方をしたわけじゃないんです。『お金があるならビニール袋は買ってくださいね』って言っただけなんですよ。ただ、お客様は最初から機嫌が悪くて、言ってもいないことを言ったと言われてしまって……」

「なるほどね」永瀬藍子はうなずいた。

「ま、言い方に気を付ける余地はあったかもしれませんね。ただ、とにかく何もなくて良かったですよ」

永瀬藍子は言った。

「じゃ、私は品出しに戻りますので、あと、よろしくお願いしますね」

永瀬藍子が駆け足で調味料の棚に戻っていくのを、佐藤敏雄は神妙な面持ちで見送っていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。