失いかけた関係を取り戻すために

夕方、喜代子は何度もスマホを手に取っては置いた。電話をかけるだけなのに、拒まれたらと思うと、なかなか勇気が出ない。

「かけるんだろう」

見かねた夫が湯のみを置きながら言った。

「ええ。ちゃんと謝らないと」

喜代子は深く息を吸い、里美の連絡先を押した。呼び出し音が数回鳴ったあと、電話がつながった。

「はい」

「里美さん、喜代子です。今、少しだけ話してもいいかしら」

短い沈黙があった。

「……はい。大丈夫です」

「この前のこと、本当にごめんなさい。莉乃ちゃんの写真を、あなたたちに何も言わずにSNSに載せてしまって」

喜代子は続けた。

「今日、インターネットについての講座で聞いてきたの。写真から個人情報が分かることもあるって。家族のチャットで送るのと、SNSに載せるのは全然違うって。私はそれを何も分からないまま、莉乃ちゃんの写真を外に出してしまったのね」

言葉にすると、自分の浅慮があらためて悔やまれる。

「孫が可愛いから自慢したかったなんて、理由にならないわ。あなたたちが怒ったのは、莉乃ちゃんを守るためだったのに、私はそれも分かっていなかった。本当にごめんなさい」

電話の向こうで、小さく息をつく音がした。

「そこまで分かってくださったなら……もういいです。こちらも強く言いすぎたとは思っていました」

「いいえ。叱られて当然だったわ」

そこへ隆二の声が割って入った。喜代子の話を一緒に聞いていたのだろう。

「母さん、本当にもう載せないでくれるんだな」

「ええ。莉乃ちゃんの写真は、もうSNSには載せません。誰かに見せるときも、必ずあなたたちに確認するわ」

「それなら、写真を撮ることまで全部だめとは言わないよ。節度を守ってくれるなら」

「え、いいの? 里美さんも?」

「はい。莉乃も、お義母さんに写真撮ってもらって喜んでたので。ただ、家族以外に公開するのはやめてくださいね」

「ありがとう。約束します」

電話を切ったあと、喜代子はしばらく動けなかった。許してもらえた安堵と、自分が失いかけていたものの大きさが、同時に胸に広がっていく。

そのとき、卓上に置いたスマホに里美から新しい通知が届いた。待ち受けには、満面の笑みを浮かべる莉乃の姿が光っていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。