秋刀魚の香ばしい香りのする食卓で円花は黙々と食事をしている。仕事終わりの裕貴、高校2年生の娘の春、義母の静枝の4人で食事をしているが、誰一人として話をしようとはしない。

一足先に食事を終えた春はテーブルに座ったまま、スマホをいじっていた。すると静枝が春に目を向けた。

「春はちゃんと勉強はやってるの? もうすぐ受験なのにそんなダラダラできるほど余裕があるの?」

静枝の言葉に春は軽く頷く。

「別に普通にはやってるよ。それに陸上部は私たちが最高学年になったんだから頑張らないと先輩たちに示しがつかないよ。今は勉強より部活なの」

部活動に理解のない静枝

春は高校で陸上部に入っている。800メートルの選手で夏のインターハイ予選には2年生ながら選手として選ばれていた。円花は春がどれだけ熱心に部活に取り組んでいるかを知っている。学生時代、特別に何かに熱中するようなことはないまま過ごしていた円花は、そんな娘のことを眩しくも、誇らしくも思っていた。

しかしそんな春のことを静枝は快く思っていない。

「部活なんて。それが仕事になるわけでもないのに、別にどうでもいいでしょ」

春はムッとした顔をして静枝を見返した。

「どうでもよくないから」

「来年は受験なのよ。勉強をもっと頑張らないといけないんじゃない?」

「別に勉強だってちゃんとやってるから」

春は臆することなく口答えをする。

こんなことが家庭内でできるのは春だけだ。円花は静枝に逆らうようなことはしないし、裕貴は関わりたくないと思っているのか基本的に静観している。