板挟みになる母親の苦悩

「お義母さん、もうちょっとちゃんと話を聞いてあげて下さいよ」

「円花さんには分からないでしょ。口出しするんじゃないよ」

円花が口をはさむと、静枝は冷たい目を向けてくる。

「こっちは孫をあんたみたいにしたくないから言ってるんだよ」

円花は唇を強く結ぶ。

何も言い返せなかった。しかしこれは気圧されているわけでも静枝の発言を認めているわけでもない。

結婚当初から、私大卒の円花に対する静枝の風当りは強かった。きっと本来なら結婚も許したくなかったはずだが、結婚の挨拶に行ったとき既に円花のお腹には春がいた。静枝はしぶしぶと2人の結婚を認めるほかになかった。

とはいえ、円花自身にも、自分を邪険にしてくる家に嫁ぐことへの不安はあった。だが、当時はまさか同居することになるとは思っていなかったこともあり、それほど重く考えてはいなかった。

「……別に私の人生なんだから好きなようにやっていいじゃん。なんでおばあちゃんに指図されないといけないの?」

「あんたが間違った方向に進んでるから止めてあげてるだけ。あんたは社会のことを何も分かっていない。あんたは絶対に東大に行くべきなんだよ」

「何それ……」

春は静枝を睨みつける。

しかし静枝は全く臆した様子を見せない。円花はどうやって間に入ろうかと機を伺っていた。だがそれよりも前に春が呆れたと言わんばかりのため息を吐いた。

「もういいや。話通じないみたいだし、説明するのが何よりも無駄って感じだね」

春は冷たく言い捨てて、リビングから出ていった。

春のいなくなったリビングで静枝は冷めた目を円花に向ける。

「娘のことなんだから、あなたがちゃんと説得をしなさいよ」

円花はため息をつく。親としてどうしたらいいのか円花は思い悩んだ。

●東大信仰の義母・静枝とスポーツ科学を学びたい娘・春。円花は進路を巡る2人の対立に板挟みとなっていた。そんな折、静枝のぎっくり腰が事態を変えていく…… 後編【「人を助けられる仕事がしたい」東大崇拝の義母が否定し続けた孫の夢…夜中の出来事が大きな契機に】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。