7月初旬の暑さが気だるくなる時期、佑香は家で掃除をしていた。夫の潤一とは25歳で結婚して、17年の月日がたつ。専業主婦歴も長く、昔は苦手だった掃除も手慣れたものになっていた。

佑香が掃除機をかけていると、スマホが震える。画面を見ると、そこには義母・美恵子の名前があった。遠方の義実家に住んでいる美恵子とは年1回程度会うくらいで、会話をするのはほとんどが電話越しだった。佑香は小さく息を吐いて、スマホを耳に当てる。

「お義母(かあ)さん、お久しぶりです」

佑香は柔らかく、穏やかな声を心掛けた。

『久しぶりね。最近暑いわね~。元気にやってるのかしら?』

「ええ、元気ですよ。お義母(かあ)さんの方も熱中症に気をつけてください」

『大丈夫よ。曜子さんが気遣ってちょくちょく会いに来てくれるからね』

「そうですか、それは良かったです……」

これ見よがしな言い草に、言外の意味を感じ取ってしまうのも、仕方のないことだった。

『あ、そうそう、昨日、お中元が届いたのよ。ありがとうね』

「ああ、いえいえ。わざわざお礼なんて良かったのに」

『ほんとありがとうね。おかげでスーパーにアイスを買いに行く手間が省けたわ~』

「あ……、はい」

美恵子は上機嫌なようだったが、佑香の17年間で培われたセンサーは漠然とした嫌な予感を敏感に感じ取っていた。