1年ぶりの義家族との再会
8月半ばの夏季休暇はあっという間にやってきて、佑香は義実家に帰省した。玄関先で佑香たちを出迎えた美恵子は朗らかな表情をしていた。
「お義母(かあ)さん、こんにちは」
「こんにちは。あら、今日は蓮も来てくれたのね。久しぶりね~」
潤一の影から息子の蓮がひょっこりと顔を出す。
「もう中学生になったのよね?」
「うん、そうだよ」
あいさつもそこそこに家に上がると、客間にはすでに曜子の姿があった。
「お久しぶりです、お義姉(ねえ)さん」
曜子は佑香たちを見て、うれしそうに頰を緩めた。
「久しぶり~、1年前と全然変わってないわね~」
「お義姉(ねえ)さんこそ、全然変わってないですよ」
曜子は明るい性格で、人当たりが良い。だからこそ美恵子が何かと2人を比べてくることも、曜子を使って自分をおとしめてくることも、とにかく腹が立つのだ。
「今日はお義姉(ねえ)さん、1人ですか?」
「旦那はね、夜から合流」
「あれ、春樹くんは来ないんですか?」
春樹は曜子の息子で、蓮の2つ上の男の子だ。
「そうなのよ。春樹がね、塾の勉強合宿に参加してて、こっちには不参加なの」
「え? まだ高1ですよね?」
「そうなの。でも本人が東大に行きたいって言ってて、そうなると今から勉強を頑張らないとダメなんだって」
「はぁ~大変ですね」
感心してうなずいていると、美恵子が割って入ってくる。
「春樹は県内で偏差値が一番高い高校に行くのよ。鼻が高いわぁスゴいよね~」
「そうなんですね。頭が良いのは前から知っていましたけど……」
「中学受験も成功して、将来はエリートになるんじゃない?」
「さあ、どうでしょう? うちはそこら辺は放任なんで」
曜子が答えるのを聞き、美恵子は佑香に目を向ける。
「蓮はどうなの? 中学は公立に行かせてるらしいじゃない」
「うちも、別に進路については蓮の気持ちを優先してますから。中学受験とかは興味なかったみたいなんで……」
美恵子は納得したようにうなずく。
「何が違うんだろうね。家庭でしっかりとした教育をしていたら、勉強を頑張らなきゃって思えるはずなんだろうけどね~」
「まぁ、それぞれのペースがありますから」
曜子は優しく佑香を援護してくる。もちろん、佑香も言われっぱなしではいられない。
「別に良い高校や大学に行くだけが優れているってことじゃないですから。部活で小学校時代からの友達たちと陸上ホッケーに熱中しているので、私は地元の中学で良かったなって思ってます」
佑香が反論すると、美恵子は鼻で笑う。
「陸上ホッケー? 何それ? プロとかないんでしょ? そんなことさせてていいと思ってるの? 放任とほったらかしは違うの。蓮のことをもうちょっと考えてあげたほうがいいんじゃない?」
美恵子は盛大な嫌みを言ってきた。怒りを抑えきれなかった佑香は隣りでずっと黙り込んでいる潤一に目を向ける。潤一はわれ関せずという顔でスマホを眺めていたが、佑香の突き刺さる視線にはさすがに気づいたのか、顔を上げるといつものように笑みを浮かべる。
「まあ、母さんは蓮のことを心配してくれてるんだよな」
あくまで潤一は美恵子の肩を持つつもりなのだろうか。
「そうよ、だから言ってあげてるの」
「今後のことはまたいろいろと考えよう、な?」
潤一の態度に、佑香は内心で深いため息をついた。
どうやら、例年通りの厳しいお盆になりそうだ。
●これだから来たくなかった。早くやり過ごして帰りたい佑香だが、相変わらずな義母の態度を改めさせるような出来事が……? 後編【「何かにつけて義姉と比べられ…」散々意地悪な仕打ちをしかけてきた義母から謝罪を引き出した「まさかの人物」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。