<前編のあらすじ>

保育士だった早月(64歳)は、育休中の嫁の梨奈(32歳)から孫の面倒を任せられることが「ちょっとあり得ない」ほど多い。孫も可愛いし、最初は自分を頼りにしてくれることが嬉しかったが、梨奈は育休の“育”をおざなりにして遊びに行ってばかり。友人とのランチやネイルサロンへ行くため、週に3日以上早月が呼ばれることもあった。

しまいには「お義母(かあ)さんが元保育士でラッキーでしたよ。ベビーシッター代浮くし、助かります」と言う始末。都合よく使われている感がぬぐえなかったが、孫のためだと不満を呑みこんでいた。

そんなある日、梨奈の留守中に、いつも通り面倒を見ていた早月がトイレのため目を離した数分の隙に、祥太がベッドから転落して頭を打ってしまう。慌てて救急車を呼んだ早月だったが……。

●前編:「ベビーシッター代浮くし」義母をこき使うモンスター嫁の“鈍感力”が招いた「起こるべくして起こった事故」

義母にブチ切れるモンスター嫁

幸い祥太は大事には至らなかった。

意識状態も正常で、嘔吐(おうと)などの症状もなく軽傷で済み、後遺症についてもおそらく問題ないだろうということだった。医師から診断結果を聞かされた早月は胸をなでおろしたが、祥太の転落事故はまだこれだけでは終わらなかった。

早月からの連絡を受けた梨奈が病院にかけつけた。息を切らした梨奈は早月から抱きかかえていた祥太を奪うと、鋭い視線を早月へ向けた。

「もう信じられない! 元保育士が聞いてあきれますね! もしも祥太に後遺症が残ったらどうしてくれるんですか⁉ お義母(かあ)さんに責任取れるんですか⁉」

「ごめんなさい。私の注意が足りなかったわ。これでも気を付けていたつもりなんだけど、まさかあの高さの柵を乗り越えるなんて思わなくて……」

責められた早月は、素直に嫁の梨奈に謝罪した。想定外の事故とはいえ、一瞬でも油断して目を離した自分に責任があるのは間違いなかった。

ところが、頭を下げる早月の姿を見ても梨奈の勢いは一向に止まらない。梨奈の怒りがほとばしり、眠っていた祥太が大声で泣き出す。

「気を付けてたつもり……じゃ困るんですよ! 祥太のことを任された以上は、きちんと責任を持って面倒見てもらわないと! 不注意でケガさせました、なんてお話にならないですよ! 本当に分かってるんですか⁉」

梨奈に言われるまでもなく、早月は事の重大さを十分に理解している。ベッドからの転落事故は0歳児が最も多く、なかには命に関わる結果をもたらすこともある。早月は元保育士である前に、息子を育て上げた1人の母親だ。当然、乳幼児がベッドから転落する危険性についてよく知っていた。育児に関する知識があるからこそ、早月は自分の不注意で孫の祥太を危険な目に遭わせたことにショックを受け、深く反省しているのだ。

しかし、目の前にいる梨奈は、早月の思いなどみじんも察することなく感情の赴くまま怒りをまき散らしている。それどころか、かけつけてから1度でも、祥太に心配の言葉をかけてあげたりしただろうか。

自分のことは棚に上げて人のことを責め立て、祥太のことすら見えていない梨奈を眺めているうちに、早月は自分の心が急速に冷めていくのを感じた。このままではいけない、と思った。