早月は、息子夫婦の家のリビングで孫の祥太と遊んでいる。

「ほら、祥ちゃん。ボールがそっちに行きましたよ」

ベビー用のボールをゆっくり転がしてやると、祥太の小さな手が器用にそれを捕まえた。つかむと音が鳴る仕様になっているボールのオモチャは、最近の祥太のお気に入りだった。

生まれてからあっという間に10カ月がたち、すくすくと成長した祥太は、すでにハイハイやつかまり立ちを覚え、いつも家の中を活発に動き回っている。目に入るもの全てに興味を持っていると言っていいほど好奇心旺盛で、指先を上手に使えるようになったことで遊びの幅もぐっと広がった。

祥太のできることが日に日に増えていくのはうれしい限りだが、その分どうしてもひやりとさせられることも多くなってしまう。この前は、ソファによじ登ろうとして後ろにひっくり返った祥太を早月が間一髪で受け止めるという出来事もあった。子供は身体に対して頭が重いので、簡単にバランスを崩してしまうのだ。そのうち歩けるようになったら、早月はもっと気をもむことになるのだろう。

そんなことを考えながら注意深く祥太の相手をしていると、早月の背後から声がかかった。

「いやぁ、お義母(かあ)さんが来てくれて助かりましたよ」

振り返ると、息子・武治の嫁である梨奈が化粧と着替えを終えてリビングの入り口に立っていた。

「いいのよ。帰りは何時ごろ?」

「うーん、たぶん18時過ぎくらいになると思います」

梨奈は今日、友人たちとランチに行く約束をしているらしい。きっと今日も約束の時間通りには帰ってこないだろうと思うと、小さくため息くらい吐きたくなる。祥太はかわいいが、こうして都合のいいベビーシッター扱いされるのは正直納得がいっていなかった。

もちろんたまの息抜きならば、早月だってこんなことは思わないだろう。ところが梨奈が祥太を早月に預けて出掛けるのは、今週に入ってからもう3度目のことだった。ちなみに前回は、「ネイルサロンに行くから祥太を預かってほしい」との要望で、育休を取っているのをいいことに梨奈は美容サロンやランチに出歩きまくっている。