<前編のあらすじ>
娘・久実が小学6年生のときに「自分で責任を持って飼う」と言って保健所から譲り受けた愛犬・こむぎの世話を、今ではすっかり母・祐子任せにしていた。かわいがるだけで何もしない久実に、祐子は不満を募らせていた。
祐子が久実に散歩を頼むも、「できたらやる」と曖昧な返事。直哉も「かわいがってるだけで十分」と久実を擁護し、祐子の虚しさは増すばかりだった。
翌日、祐子は買い物に出かける前、リビングで勉強する久実に「床だけは片付けて」と念を押した。しかし帰宅すると、部屋の空気がいつもと違う。膝をついた久実の腕の中で、ぐったりと横たわるこむぎの姿があった。
●前編【「また今度」が来たためしはない…忙しさを理由に散歩当番から逃げ続けた中学生娘の“軽すぎる約束”】
震える久実と苦しむこむぎ
こむぎの体はぐったりと横たわり、喉の奥で変な音を鳴らしている。
「久実、何があったの」
「わかんない、急に……さっきまで普通だったのに」
震える久実の指先がこむぎの毛並みを撫でた。祐子の視線がそこへ吸い寄せられる。
「……こむぎが、急に苦しそうになって」
途中で声がかすれ、久実の目が潤んだ。
「ごめんなさい……私、どうしたらいいかわかんなくて」
一瞬、「なぜもっと早く連絡を」と言いかけて、喉の奥で押し込めた。今は優先順位が違う。
祐子は買い物袋を床に置き、こむぎの口元に手を伸ばす。こむぎは目を細め、苦しそうに鼻を鳴らした。
「今から病院行く。久実、キャリーとタオル持ってきて」
「わ、わかった!」
「あと念のためリードも」
祐子は片手でスマホを取り出し、動物病院の番号を押した。呼び出し音の間も、キャリーやタオルを持ってきた久実が「こむぎ、こむぎ」と声をかけ続けている。
「もしもし、今から行きます。急に苦しそうで……はい、はい」
通話を切ると、祐子は久実の顔を見た。
「よし、行くよ。こむぎをお願いね?」
「うん……」
久実は泣きそうな顔のまま頷き、キャリーバッグを掴む。勢いよく玄関のドアを開けると、冷たい風が吹き込んできた。
