大輔は玄関で靴を脱ぎ、足先で蹴飛ばすように端へ寄せた。リビングの扉を開けてまず視界に入るのは、床に散らばった洗濯物。どれがいつから放置されているのか、自分でも判断がつかない。
「おかえり」
テレビの前のソファに寝そべった三奈が、スマホから顔だけ上げた。
同棲を始めてもう2年近く。サロン勤務の美容師である彼女とは、基本的に休みが合わない。それでもこうして関係が続いているのは、相性が良いからだろうと大輔は考えている。
だらしない日常に忍び寄る異変
「ただいま」
「豚汁あるよ。あとコロッケも」
「サンキュー」
小鍋を火にかけて、惣菜の皿をレンジに放り込む。夕食が温まるのを待ちながら、グラスを持ってウォーターサーバーの前に立つ。冷たい水を勢いよく口に含んだ瞬間、大輔は激しく後悔した。
「……痛っ」
奥歯が、じわりと疼く。舌先で軽く触れると、大輔は口を閉じ、唾を飲み込む。
完全に油断していた。
「また? いい加減、歯医者行ったら? 絶対虫歯だよ」
「平気。たぶん気のせいだ」
三奈はゆっくり立ち上がり、呆れた顔で洗濯物の山を指さした。
「これも気のせい?」
「それは……明日やるから」
「大輔、明日っていうのはね、今日の次の日のことなんだけど、知ってる?」
「知ってるよ。明日は明日だ」
そう言いながら大輔は上着を脱いで椅子の背に掛けた。
すでに昨日のパーカーが占領しているせいで、肩がずれて落ちかける。
「でも忙しくて……」
口を突いて出た瞬間、便利すぎる言葉だと自分でも思う。
仕事が忙しいのは事実だ。しかし、それとこれとは別だというのも頭では分かっている。現に同じフルタイム勤務の三奈は、洗濯物を溜め込まないし、自分のテリトリーを散らかさない。
鍋から豚汁をよそい、電子レンジからコロッケを取り出して、食事の準備をする。汁物を一口飲んだところでまた歯がうずき、大輔は無意識に頬を押さえた。
