部下から出された食品メーカー向けのプレゼン資料に目を通していた拓郎は、深くため息を吐いた。

「……約12%の改善が見込めるだと?」

入社して10年経つというのにまだこんな資料を作っているのかと激怒したくなった。

拓郎がこの中堅産業機器メーカーに入社したばかりの30年前であればミスをすると厳しく説教されるのが当たり前だった。しかし時代は変わり、今はそんなことは許されない。説教をしてはいけない時代になった。

拓郎は怒りをこらえながらダメだしの文章を部下に送った。

『約とは何だ? 希望的観測を資料に入れるな。根拠は必ず添付。クライアントがこれを見て発注したいと思うか?』

すぐに返事が返ってきた。

『申し訳ありません。再度精査します』

拓郎は間髪入れずにキーボードを叩いた。

『今後は提出前に精査をするように。精査をするのなら今日中にやること』

送信ボタンを押して拓郎は椅子にもたれた。

昔ならこんなもので済まなかった。怒鳴り散らされたり目の前で資料を破られたりしてきた。しかし拓郎はそんな厳しさに食らいついていた。

だからこそ今の立場――部長補佐になれたと思っていた。同期の誰よりも出世をしているし順調にいけば部長の役職だってそう遠くない。

拓郎は、そんな自分の人生に誇りを持って仕事を続けていた。