会話のない夫婦の冷めた日常

家の玄関を開けるとリビングから明子がやってきた。

「お帰りなさい。脱いだ服は洗濯かごに入れておいてね。ご飯はもう準備してあるから」

決まり切った文言を告げて明子はまたリビングに戻っていく。拓郎は言われたとおりにシャツや靴下を洗濯かごに入れ、部屋着に着替えてリビングに向かった。

テレビを見ながら晩ご飯を食べた。流れているニュースでは地方移住の特集が組まれている。そういえば、明子はオーガニックやら自然やらが好きだったな。豊かな自然に囲まれながら充実感ありげに暮らす人がインタビューを受けている様子を眺めたあと、拓郎はちらりと明子を見やる。明子は先に食事を済ませてソファに座って携帯を触っていた。

拓郎は明子を見ただけで特段話しかけはせず、味噌汁を飲み、メインの塩鯖に箸をつける。少し塩っ気が薄い気がした。

「味が薄いな……おい、醤油」

「……はいはい」

ソファに座っていた明子は立ち上がり、キッチンから醤油差しを持ってくると、すぐにソファに座って戻っていった。拓郎は塩鯖に醤油をかけた。

一見すると冷めきっているように見えるが、これでもうまくやっているほうだ。もう家を出て久しい2人の息子が小さいときは、もっと剣呑な空気が家中に広がっていた。

これと言って話す話題もないし、休日に2人で出かけるようなこともない。明子は明子で子育てがひと段落したころから、拓郎の反対を押し切って雑貨屋でパートをしているし、拓郎も休みの日くらいは家でのんびりしていたい。

けっきょく、夫婦は所詮他人。こんなものだろうと思っている。