春なりに示した将来のビジョン

「……将来のことはちゃんと考えてるの?」

「考えてるよ。とりあえずスポーツ科学について勉強をしたいかなとは思ってる。就職もそこでの知識を活かせるところがいい」

春はハキハキと答える。昔から何事にもしっかりとしたビジョンを持っていた。

「スポーツ科学? そんなのどこで教えてくれるのよ?」

春は幾つかの大学をスラスラと答える。

知らないうちに春の中では明確な道筋を立てていたのだ。しかしそこで出た大学名を聞いて静枝は険しい顔になる。

「そんなところに行くのなんて私は許さないわよ」

「は? なんで?」

素直に春は驚いた顔をする。

「東大以外なんてあり得ないでしょ。それ以外の大学に行くのなんてお金の無駄よ。私大なんてもってのほか。高い学費払って遊びに行くようなものじゃない」

静枝の言葉には強情な信念が感じられた。

静枝は東大を卒業していた。さらに言うと3年前に亡くなった義父も東大で、裕貴も義弟の貴弘も東大だ。そのためなのか、明らかに学歴で人を見下す態度を取るのが静枝だった。

「いや別に遊びに行くんじゃないから。私が勉強したいことは東大じゃできないんだよ」

「だったら学ぶ必要のないものだってことだよ。そんなものに時間を費やすのは無駄だってこと」

静枝は無駄、の部分を強調する。

さすがの円花も、春がしっかりと自分で考えて見つけた目標を無駄だと吐き捨てることに親として怒りを覚えた。