年末年始の帰省から戻った夜、律子は紙袋に入った土産物を台所へ運びながら、何度目かのため息をついた。中学2年生の息子、航大はソファに寝転がってスマホを見ている。一方、小学6年生の怜美はこたつの端で、義母から持たされた菓子の袋をのぞき込んでいた。夫は風呂に入っている。義実家での気疲れがまだ体に残っていて、律子は早く片づけを終えたかった。
そのとき、航大のリュックを持ち上げた拍子に、中から白い封筒が滑り落ちた。
「航大、これ何?」
律子が拾い上げると、航大の肩がわずかに揺れた。
「別に」
封筒には何も書かれていなかった。嫌な予感がして中を見ると、折りたたまれた紙幣が何枚も入っていた。
「これ、おばあちゃんから? 怜美ももらったの?」
怜美は菓子の袋から顔を上げ、気まずそうに目をそらした。
「……うん」
怜美のバッグを見ると、同じ封筒が出てきた。中に入っている金額は航大のものとほとんど変わらない。中学生と小学生が自由に使うには、明らかに多すぎる金額だった。
「おばあちゃん、何て?」
航大はスマホを伏せ、面倒そうに体を起こした。
「欲しいものがあるなら、これで買いなさいって」
「お年玉とは別で?」
律子が静かに聞くと、怜美が小さく口を開いた。
「お母さんには内緒よって」
またか、と律子は心の中で呟いた。義母の義美は、以前にも何の相談もなく、子どもたちに高価なプレゼントを買おうとしたり、多額の小遣いを与えようとしたりしたことがある。
「どうしてすぐ言わなかったの」
「だって、内緒って言われたし」
怜美が答えると、航大も口をとがらせた。
「別に悪いことじゃないじゃん」
律子は2つの封筒をテーブルに置いた。
「これは、お母さんが預かります」
「え、何でだよ」
「ずるい! 怜美がもらったのに!」
航大が体を起こし、怜美も不満そうに声を上げた。予想していた反応ではあったが、律子は胸がちくりと痛んだ。
「あのね、横取りするわけじゃないよ。使う分だけ手元に残して、あとはそれぞれの口座に入れておくから」
「えー、俺がもらったんだけど」
「怜美が、自分で使っちゃだめなの?」
2人はなおも納得していない顔をしていたが、律子は細かい説明を重ねるのはやめた。疲れ切った今の状態で話しても、お互い苛立ちが募るだけだろう。
「今日はもう遅いから、詳しい話はまたするね。とにかく、この金額をそのまま持たせておくことはできない」
航大は黙ってスマホを手に取り、怜美は菓子の袋を抱えたまま唇を結んだ。
リビングには、帰省の荷物がまだ半分残っている。律子は2つの封筒を重ね、子どもたちの不満げな視線を受けながら、静かにテーブルの端へ寄せた。
