加代の本音を耳にする
「私もお手伝いします」
すかさず美月も声をかけたが、加代はきっぱりと断ってきた。
「いやいや、いいんだよ。里美ちゃんと私が味付けとかみんなの体のこととかをよく分かってるから。美月さんは座っておいていいからね」
そう言って加代はすたすたと廊下の奥の台所に向かってしまった。
それは明らかに排除だった。立ち尽くす玄関の廊下は、隙間風のためかやけに冷たく感じられた。
しかたなく居間にいるしかなくなった美月は上の空で達之たちの会話に相づちを打ちながら、頭の中ではここからどうやって仲直りしようかと考えていた。
だが、玄関での態度を見てわかる通り、加代には取り付く島もない。孝は「母さん頑固だから」と慰めてくれたが、納得はできなかった。
折を見て美月は居間を出て台所に向かった。何か手伝えることはないかと聞いて、加代と話をしようとした。ゆっくりと台所に近づこうとすると里美の声が耳に入ってきた。
「どうします? 盛り付けとか飲み物の準備だけ美月ちゃんにやってもらいましょうか? 2人だけだとちょっと大変ですし」
「別に呼ばなくていいわよ」
里美の提案を加代はばっさりと断った。
「ちょっとね気が利かないところがあるから。私たちでやったほうがましよ」
「そ、そうですかね……?」
美月は唇を噛みしめた。
事前に確認せずにビールとカニを送ったのは確かに気が利かなかったのかもしれないが、そっちが何も報告してなかったことも原因だ。それなのに自分のことは棚に上げて、気が利かないのひと言で済まされるのには腹が立った。
美月は体の内側に充満しつつある怒りを逃がすように、深く息を吐いて居間に戻った。
●義母の加代は痛風の夫を配慮しない美月からのお歳暮に激怒する。義実家で加代から冷たくあしらわれる美月だったが、思いがけない真実が明らかになる…… 後編【「今日だけは解禁だよ」ビールを飲み、カニを頬張る痛風のはずの義父…お歳暮トラブルを引き起こした衝撃の事実】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
