ようやく仕事を納め、年末年始休暇に入ったというのに、浮き立つ世間のムードとは裏腹に博美の心は曇っていた。
ため息をつきながら、キャリーケースの中身を確認する。四角いケースの中には、服や小物、化粧道具などが小分けにされており、何がどこにおいてあるのかがすぐに視認できるようになっている。準備が十全であることを確認し、博美は玄関に向かった。
これから博美は夫である隼佑の実家に帰省する。毎年恒例の行事で、博美にとっては1年で最もテンションが下がるイベントだった。
「早めに出発しないと、ウチに着くのが遅くなるからな。おーい、大貴も早くしろよー」
隼佑が息子の大貴に声をかけると、ダウンを着込んだ大貴が2階からあわただしく下りてきた。
帰省は中学3年生になった大貴も一緒だ。今年こそは高校受験を理由に帰省を断ってくると思ったが、博美の願いはむなしく、大貴は田舎の義実家に向かうことに割と乗り気だ。
「勉強道具持ったの?」
「いいや、別に2、3日だしいいでしょ」
「そうだよ。日頃ちゃんとやってんだから、正月くらいは羽を伸ばさせてやろうよ」
男性陣はのんきだ。博美はやれやれと、もう今日何度目になるか分からないため息をついた。