ガサツ過ぎる義母
朝早くに家を出たのだが、帰省ラッシュに巻き込まれたこともあり、義実家に着いたのは夕方の遅い時間だった。
木造の古い家屋に義両親は住んでいる。昔懐かしいチャイムを押すと、満面の笑みを浮かべた義母の愛子が玄関に出てきた。
「あら、久しぶりね。遠くて大変だったでしょ。ほら早く中に入りなさい」
博美は愛子にぺこりと頭を下げた。
「すいません、今年もお世話になります」
「いいのよ。あなたも長時間、助手席で疲れたでしょ? お歳暮で山中さん家から届いたようかんがあるから、中でゆっくりしてって」
「ありがとうございます」
よく嫁をいびる姑の話を見かけるが、博美と愛子の関係はそれほど悪いものではない。年末年始のタイミングくらいしか顔を合わせることがないというのもあるだろう。だが、気が合うかと言われれば首を縦に振るのは難しい、とも思う。
周りからきちょうめんだと言われていた博美には愛子の粗暴な振る舞いがとにかくストレスだった。
初めて結婚のあいさつに来たときに、愛子がトイレを開けっぱなしにしているのを見て嫌悪感を持った。それ以外にも窓を開けっぱなしで洗濯物を干して寒い思いをしたり、博美がお風呂に入ってるときに平気でドアを開けて話しかけてきたりしてきた。こんな人たちとこれから1月2日までずっと一緒に過ごさないといけない。そう思うと、とにかく気が重かった。
「博美さん、どうもどうも」
居間ではコタツの中で義父の俊雄が笑顔で迎えてくれた。
今年で74歳を迎えたというのだがまだまだ元気だ。
「すいません、お世話になります」
俊雄へのあいさつもそこそこに博美たちが腰を下ろそうとすると、愛子はエプロンからポチ袋を出してきて、大貴に渡す。
「大ちゃん、これお小遣いだから。何でも好きなものを買いなさいね」
大貴は軽く頭を下げて受け取る。大貴がいまだに祖母の家に素直にやってくるのは、これが理由だ。
「お義母(かあ)さん、もうそんなのいいのに」
博美はやんわりと拒絶の姿勢を見せる。それも当然で、このお小遣いとは別に2日後にはまたお年玉も愛子は渡すのだ。
「いいのよいいのよ。こんな田舎が他に使い道なんてないんだから」
「いや、でも……」
博美がそれでも注意をしようとすると、隼佑が割って入る。
「別にいいだろ。母さんだってたまにしか会わないんだから。小遣いを渡すくらいどうってことないだろ」
「そうよねぇ。そんな目くじら立てることじゃないわよねぇ」
隼佑に肩を持たれて、愛子は声を弾ませる。
味方をしてくれない隼佑に博美は怒りを覚えた。隼佑に反論しようとしたが、誰も味方がいないと分かり黙らざるを得なかった。自分の考えを分かってくれる人がこの場にはいないのだと絶望的な気持ちになった。