5月らしからぬ鋭い日差しに、慎一は思わず目をすがめ、汗で湿り始めた首筋をハンカチで拭った。

見渡した近所の小学校のグラウンドは体操服姿の園児とその父兄たちで賑わっている。手作り感のある入退場のアーチ。お金のない公立らしい古びた校舎。来年には息子の清弥もここに通うことになるのかと思うと、慎一はひどくうんざりした気分になった。

「今週末、分かってるよね?」

週初めの月曜日、妻のさつきに釘を刺されたのはもう二十四回目だったから、慎一は苛立ちを隠そうともせずに「分かっている」とぶっきらぼうに答えた。

近所の小学校のグラウンドを貸し切って開催される幼稚園の運動会。毎年5月のこの時期にやっているそうだったが、慎一はこれまで仕事の忙しさを理由にして(運動会に限らず行事という行事に)参加してこなかった。

「今年で最後なんだからね。清弥だって楽しみにしてるんだから」

さつきはため息を吐いたが、ため息を吐きたいのは自分のほうだと慎一は思う。運動会は小学校に上がったって毎年あるだろう、とは言わなかった。

本来なら清弥は、慎一の母校でもある私立の付属幼稚園に入るはずだった。というより、それが清弥にとって最良なのだから、そうする他に選択肢などないはずだった。

人間の基礎は幼いころに作られる、と慎一は思う。大した偏差値もない地方の公立校から政財界の重鎮の子息などが幼稚舎からエスカレーターで上がってくる有名私大に進学した慎一が、些細な価値観のギャップで恥をかいたことは一度や二度ではなかった。