私立と違って公立は……

学力や親の経済力で括る私立と違い、公立は地域で括った子どもや家族が集まる。だからどうしたって、こういう品のない人間が出てきてしまうのだ。

周囲にいる落ち着きのない子どもの邪魔を鬱陶しく思いながら、清弥の様子を撮り終えて戻ると別の場所で清弥を見守っていたさつきが、撮ったビデオを見せるように迫ってくる。慎一は地面に敷いたレジャーシートに腰を下ろし、スマホを渡した。

「うわ、なにこれ。全然、清弥撮れてないじゃん」

「仕方ないだろ。周りも人いて身動き取れないし、第一その手前のガキが邪魔ななんだよ」

「まあいいや。私のほうでしっかり撮れてるし。慎ちゃんにはあんまり期待してなかったから。慎ちゃんは、午後イチの障害物リレー、頑張ってよね」

「――は?」

慎一は思わず固まった。唖然とする慎一に、さつきはプログラムを指差して見せる。

「書いてあるじゃん。ここ。父兄参加の障害物リレー。清弥、パパが走るんだよって言ったらすごい喜んでたよ」

「喜んでたよって言われても、聞いてないし……」

慎一は自分の恰好を見る。運動会なので足元こそスニーカーだが、着ているのはポリ混のセットアップとTシャツだ。かしこまってはいないが、それでも走るほどラフな恰好ではないだろう。

「たまにはちゃんとかっこいいとこ見せてあげてよ」

さつきは何の気なしに微笑んでいるが、慎一は引きつった笑みを返すので精一杯だった。

●辞退したい。そう思う慎一だが、息子が期待しているし、やめてプログラムに穴をあけるわけにはいかないと、しぶしぶリレーに参加することになる。見下していたはずのクラスメイトの親たちや担任に声援を投げかけられ、慎一の胸に去来した思いとは……。後編:【父兄参加の障害物リレーで転倒し…息子が通う公立幼稚園の運動会で、私立至上主義の父が気付いたこと】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。