東京に出てきて感じた衝撃

自分を貧乏だと思ったことはない。父は中堅企業のサラリーマンで、母は主婦をしながら近所のスーパーでパートをしているどこにでもある普通の家庭で、自宅は慎一が中学にあがる前に建てた二階建ての一軒家。特別に裕福ではないが、お金で不自由するようなことはなく、むしろ慎一はその優秀さによって周囲から一目置かれてすらいた。

だが大学で出会った彼らは違った。親から渡された分厚くて固いクレジットカードを持っていて、授業よりも遊びに熱心だった。

もちろん大学で知り合った全員が全員、裕福な育ちの人間だったわけではない。しかしそれでも、東京に出てきて受けた衝撃は慎一にいらぬコンプレックスを植え付けるには十分だった。

だから慎一は表面的には何食わぬ顔で、だが必死になってバイトをした。彼らがするようにTシャツやデニムはごく一般的なものを選び、靴や鞄、時計などは無理して一流のものを身に着けた。もちろん勉強も怠らなかった。大学の授業はもちろん、OBや企業が主催するセミナーやインターンシップなどにも参加し、自分が本当の意味でエリートと呼ばれるようになるために必要な地盤作りに執心した。

そのおかげで手に入れることができた今の地位だ。財閥系の銀行に入社し、同期の誰よりも早く支店長になった。働き始めてもうすぐ20年になるが、たったの1度だって休んだことはなく、こつこつと実績と信頼を積み上げてきた。そうした努力が報われているという達成感はあるし、自分の人生に誇りも感じる。だが、ここまでの人生には大きな苦しさが伴った。だからこそ清弥には同じ苦労をさせたくないと思った。

それなのに、と慎一はため息を吐く。