東順子さん(仮名)は68歳の現在まで独身を貫いてきました。仲間には「結婚相手への理想が高過ぎた」と説明していますが、背景にはひと回り年上の姉の家庭への憧れがあったと打ち明けます。「義兄は大学の教員。俳優のアレックス・ボールドウィンにちょっと似ていて、義兄に似た2人の子供は子供の頃本当にかわいかった。姉のような家庭がほしいと思うと相手を選んでしまって、なかなか結婚できなかったんです」。

姉は下の男の子を溺愛気味でしたが、「母と息子の間柄ではよくあること」と受け止めていたそうです。しかし、義兄が亡くなった後も元気いっぱいだった姉が昨秋末期がんと診断され、5月に逝去。姉を見送る中で見えてきたのは、東さんの知らない姉の顔、そして子供たちとの関係性でした。

〈東順子さんプロフィール〉

千葉県在住
68歳
女性
無職(元会社員)
ひとり暮らし
金融資産3500万円

昏睡状態になるまで甥の話ばかりしていた姉

先月、私は自分よりひと回り年上の姉を見送りました。新緑が美しく風薫る5月は姉が一番好きだった季節で、そのタイミングで逝ったのは姉らしいと言えるかもしれません。末期がんの診断を受けてから、わずか半年後でした。

姉は亡くなる直前、昏睡状態になるまでずっと甥の恒司の話ばかりしていました。

恒司は姉の長男です。姉は5年前に亡くなった義兄との間に、第一子である長女の万起子と恒司をもうけました。万起子は大学を卒業して数年後に先輩だった男性と結婚し、仕事を続けながら2人の子供を育てています。一方、恒司は20年前に仕事を辞めてからずっと、自宅で親の庇護の下で暮らしています。

時々部屋から出てこない時期はあるようですが、完全なひきこもりというわけではありません。普段は好きな演劇を見に行ったり、飲み歩いたりしているようです。しかし、いくら姉が「いつまでも親がいるわけではないのだから、先々のことを考えて少し働いたら?」と言っても、「そういう話はいいよ」と一向に耳を傾けようとしなかったと聞きました。

さらに、元気そのものだった姉にがんが見つかり、やれ検査だ、入院だとなった時も、一番身近にいた恒司は何をするわけでもなく、名古屋に住む万起子や私が付き添いや、さまざまな手続きを行うことになったのでした。

姉が子供の頃から恒司ばかりかわいがっていたこともあり、万起子は姉と不仲で距離を置いているように見えました。近くに住む旦那さんのご両親が子供たちが小さい頃から面倒を見てくれたようで、姉のいる実家にはほとんど寄り付きませんでした。

そんな万起子が仕事の合間を縫って自宅や姉の入院先に駆け付け、いろいろ動いてくれたのは私から見ても大変頼もしく、病床の姉に「やっぱりいざという時には女の子の方が頼りになるものね」と言うと、姉は複雑そうな表情を浮かべていました。