<前編のあらすじ>

典江は娘の小学校の通学路で「ダッシュ婆」こと高齢女性の高木八重子が子どもたちに怒鳴ったり腕をつかんだりしているという噂を耳にした。以前から問題になっていたが、学校側も「被害として扱うのは難しい」と明確な対処ができずにいた。

ある日、娘の梨歩が高木に突然怒鳴られ、泣きながら帰宅。ソファで膝を抱える梨歩の姿を見た典江は、冷静な夫の制止を振り切って高木の家へと飛び出した。

高木の家は、噂とは裏腹に清潔に整えられた普通の住まいだった。高木は落ち着いた口調で「必要があったからした」と言い切られてしまい、「立ち話では何でしょう」と居間へと通されたのだった。

●前編【PTAで噂の「ダッシュ婆」が娘を泣かせた…通学路で起きた騒動に母が激怒し乗り込んだ真相

仏壇の横の一枚の写真

案内された居間は、古いがきちんと片づいていた。低い棚の上には小さな花瓶が置かれ、座布団はまっすぐに並べられている。部屋を隅々まで見るのは不躾だと思いつつも、仏壇の横に置かれた写真立てが視界に入った瞬間、自然と目が止まってしまう。

写っているのは、晴れ着姿の少年だった。

「……お孫さんですか」

口にしてから、聞くべきではなかったと思った。しかし高木は少しだけ写真の方を見て、それから静かに答えた。

「子どもです」

典江は言葉を失った。高木の年齢を考えれば、彼女の息子は典江と同年代でもおかしくない。だが写真の中の子どもは幼いまま、そこで時間が止まっているようだ。高木は湯のみを出して、ゆっくりと語り始めた。

「事故でした。学校の帰りに、車にはねられて。即死だったそうです」

典江は座布団の上で、膝に置いた自分の手を握った。

「それで……子どもたちを?」

「黙っていられないんです。信号が変わりそうなのに走り出す子、友だちの方ばかり見てふらふら車道へはみ出す子、ふざけながら横断歩道を渡る子。ああいうのを見ると、自ずと体が動くんです」

淡々と語る横顔には、何年経っても癒えない傷が残っている。

高木は故意に小学生を脅かしていたわけではない。ただ通学路の子どもたちに、交通事故で亡くなった息子の面影を重ねていただけなのだ。そう気づいた途端、典江は自分の中の怒りが、波が引くように消えていくのが分かった。